残月5

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「そりゃ、美味しいもんは何でも好きに決まってます」
 そういえばと、良太は先日一緒に食事をした時、珍しく工藤が栗きんとんを食べたことを思い出した。
「栗きんとん、そろそろですよね」
「お、いいね、栗きんとん」
 後ろから聞きつけたらしく、小杉の声がした。
「あ、小杉さん、お疲れ様です」
 良太は振り返った。
「お母さん、大丈夫でした?」
「ああ、ほんとに申し訳ない。行ったらすぐに見つかって、元気過ぎて徘徊しちまうもんだから」
 志村のマネージャーである小杉は最近認知症が進んだ母親を施設に入れたのだが、明け方一人で外に出て行ったらしく行方が分からないと施設から連絡を受けてそっちに出向いたたため、良太が工藤と志村を車で送って来たのだ。
「いえいえ、お元気なのはいいですが、そんな時は遠慮なく言ってくださいよ、俺、動きますから」
 良太が言うと志村も「俺も子供じゃないから自分で動くし」と主張する。
「ありがとう。何かの時は頼みます」
 小杉は良太や志村に頭を下げた。
「お互い様ですよ。うちは少人数な分、みんなで助け合わないとやってけませんもん」
 良太はきっぱりと言った。
「そうだな」
「そういえば、まだ未定ですが、それに皆さんのスケジュール如何なんですが、実は少人数な分、社員のための慰労パーティをやれないかと模索中なんです。業者さん向けの忘年会とは別に、社員のご家族とかもご参加いただいたりという。年末が忙しければ、年明けにとか。どう思われます?」
 今のうちに聞いておこうと、良太が切り出すと、志村は、「いんじゃない?」と即座に頷いた。
「珍しいね、社で何かやるとか。いいと思うよ」
 小杉にも賛同を得て、良太は少しほっとした。
 先日、工藤が社員でハワイかグアムでも行くかなどと言い出した時は、人と群れることの嫌いな工藤がそんなことをと良太も少し驚いたが、それはおそらく、先だっての事件で迷惑をかけたことで、工藤の社員への謝意のつもりなのだろうと推し量った。
「ああ、でも、もう一つ案があって、これもスケジュールの都合次第なんですが、みんなでハワイかグアムに行くという。福利厚生ってやつです」
「へえ、それもいいね」
 志村はそうは言ったものの、「しかしみんなのスケジュール合わせるのって難しいよな」と付け加える。
「行けたら家族とか喜ぶだろうけど、やはりスケジュールがね。福利厚生なら、ほら、軽井沢の別荘、誰でも使えるようにしてくれてるじゃないか」
 小杉が笑う。
「うちの家族も夏や冬たまに利用させてもらってるよ。俺抜きでだけどね」
 良太は言おうかどうしようか迷ったものの、今は鈴木さんと志村や小杉が社内では一番古株にあたるわけで、工藤とも長い付き合いなのだからと、口を開く。
「実は、工藤さんが言い出したんです。多分、社員の皆さんに色んな意味でお詫びとお礼のつもりもあるんだと思うんですよ」
 すると小杉がはあ、と一つ溜息をついた。

 


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