残月8

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 実際、ドラマの中でのキーマンだった本谷は、ドラマの出来不出来に関わるキーマンでもあったが、最初は『田園』の時の竹野のような毒舌ではないにせよ、それこそ大澤に文句を言われたり、監督にも心配されたりしたものの、何とか尻上がりに調子を上げて、同時にドラマの方もしまりが出てよくなった。
 最近放映されている本谷の清涼飲料水のCMも評判がよく、主演の大澤が巧みな話術で会見を盛り上げている中、本谷への質問もよく飛んだ。
 今回の役作りなどの質問に、本谷が真摯に真面目に答えたあと、大澤が「いやあ、実は、この人でほんとに大丈夫かって、顔合わせの時思ったんですよ」などと言い出したので、ちょっと会場がざわめいた。
 良太がおいおい、と思っていると、大澤は、でも、と続けた。
「それが撮影が進むにつれて、こう階段上がるみたいによくなっていくんですよ。いやあ、若いって、いいですよね」
 大澤が大仰に感慨深げにそう締めくくると、場内も沸いた。
 自分こそ、最初は傲慢で我儘で散々周りに手を焼かせたくせに、と良太は大澤を見て苦笑する。
 本谷はとりあえず笑っている。
「大澤くんもそんなことが言えるくらいな余裕が出てきましたよね、最初はこの人どうなることかと思ってましたけど」
 すかさずアスカが言うと、「お互い様じゃないの? アスカさん」と大澤がしれっと返す。
 また会場がどっと沸く。
 会見はそんな感じで、スタッフや俳優陣も笑顔で、案外いい雰囲気の中終了した。
「工藤さん」
 裏で会見を見ていた工藤と良太は、その声に振り返った。
「今回はほんとにお世話になりました」
 そう言うと本谷は深々と頭を下げた。
「すごくいろいろ勉強になりました。ありがとうございました」
「放映はまだこれからだ。礼を言うのは早いぞ」
 そうやって捻くれたことを言うんだ、このオヤジは。
 おべんちゃらもなくまともに頭を下げられるのが照れ臭いってのもあるらしい。
 良太は隣でフンと工藤をチラリと見やる。
「はい、ちゃんとチェックします。広瀬さんにもお世話と言うかご迷惑おかけしました」
「いえ、俺は仕事ですから、次も頑張ってください」
「はい」
 にっこり笑うと、失礼します、ともう一度頭を下げ、本谷は待っているマネージャーのところへ小走りで戻っていく。
 何か、踏ん切りがついたような表情をしている、と良太は思った。
 そういうきっかけとか、あったんだろうか。
 でも、やっぱ、俺なら、簡単に思いきれないだろうな。
「田園の方も、チェックしておけよ」
 仕事の鬼が隣で言い放った。
「はい」
 ちぇ、ちょっとは本谷の心を思いやるとか、ないのかよ。
「檜山の家の撮影はうまくいきそうか?」
 良太の心のブツクサなどお構いなしに工藤が聞いた。
「今日、この後、檜山邸にスタッフと伺うことになってます。檜山さんが案内してくださるってことで」
「そうか。任せたぞ」
「これからフジタですか? 送りましょうか?」
「いやいい。お前は檜山の方を頼む」
 それだけ言うと、工藤はたったか出て行った。
 鬼だって、一言くらいあると思うぞ、俺は。
 赤鬼なんかめちゃ可愛いじゃん、工藤と比べたら。

 


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