この二〇畳ほどのワンルームは、力の父親である片岡が、力が高校に上がる時に買い与えたものだという。
初めて佑人がこの部屋に来た頃は、ペットベッドらしきタローのスペース以外、ベッドとソファにローテーブル、あとはテレビなどのオーディオと本棚が一つあったくらいのシンプルな部屋だったが、最近では本棚が一つ増え、パソコンを置いている大きめのテーブルと椅子二脚が部屋の中央を占領している。
ほとんど使用していないような鍋やわずかな皿やカップが置いてあるだけだったキッチンの棚には、炊飯器やフライパン、食器類が増え、シンクの引き出しにはカトラリーやナイフなどが並び、さらにはポカリスエットやビールくらいしか入っていなかったがらんとした冷蔵庫は、総菜や野菜類、ハムチーズ、卵などで割といっぱいになっている。
休日にこの部屋を訪れるようになった佑人が、郁磨みたいにうまくはないけどと言いながら、家で作っているものをここでも作ったりするようになった。
ざっくり野菜を切って煮込んだポトフや市販のルーで作れるカレーなどは力も一緒に作ったりしながら、最近は力自身もたまに自炊するようになったのだ。
ここのところ力はパスタに挑戦している。
レトルトをただパスタにかけるだけのものだったのが、最近はベーコンやトマトを使ったソースを作ったりもする。
夏前に佑人と一緒にこの部屋へやって来た坂本が、力が作ったパスタを出されて、「ありえね……」と数秒固まっていた。
「佑人、大丈夫か?」
気づくと力が佑人を覗き込んでいた。
「うん、ちょと寝てた」
タローに水を飲ませると、力はべったり汗で張り付いたTシャツを脱ぎながらバスルームへ消えた。
にほんブログ村
いつもありがとうございます
