そばにいたい8

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「声かければ、陰の坂本が動いてくれるって?」
「だーーーっ! それはもうナシ! 陰はナシ!」
 よほど嫌なのか、思い切り否定する坂本に佑人は声をあげて笑った。
「あ、力が店に直接来いって」
「命令しやがって」
 高校時代の懐かしい駅で二人は電車を降りた。
「おっせぇぞーー!」
 居酒屋の威勢のいいスタッフに迎えられて、パーテーションで仕切ったテーブル席に案内されると、坂本の長身を目ざとく見つけた力が文句を言った。
「うっせーな、ほーんの十分だろうが」
 坂本はさり気に佑人を奥の力の横に座らせた。
「よう」
 進学して少し大人びた東山が佑人に声をかける。
「こないだの友達、また佑人に会いたいって」
 啓太が満面の笑顔で言った。
「ああ、いいよ」
 そう答えながら、佑人が力を見ると目が合った。
「大丈夫か?」
 その一言だけで、佑人は心の中で心配ごとのあれやこれやが氷解していくのがわかった。
「ああ、大丈夫」
 自然、笑みが浮かぶ。
「ちっくしょー、遠いぜぇ! ったくよぉ!」
 ドタドタと現れたのは甲本だ。
 しかしちょっと見、制服を脱いで間がないとは思えないし、啓太と同い年とはだれも思わないだろう。
 家は古くから甲本医院といえば地元では知らないものはなく、現在は甲本総合病院として救急指定、病床数約五百の中型クラスの病院で、親も兄も優秀な医者なのだが、末の達樹に至っては子供の頃から悪ガキで親を散々悩ませていた。
 どんなバカ大でもまさか医学部に受かるなどとは家族は到底思ってもいなかった。
 特に中学の頃、力の母百合江と共に学校に呼び出される常連だった甲本の母は、百合江の店で開かれた卒業パーティでバカ息子の快挙に肩の荷を下ろして涙ぐんでいた。
 バカ息子はといえば、大学が八王子にあって通うのがたるいと、マンションを親に借りてもらっている。
「てめぇが遠いガッコ選んだんだろーが」
「うっせっぞ、力、入れてくれるのがそこしきゃなかったんだよっ!」
 もっと、詰めろよ、と坂本に言いながら甲本が座ると、既に注文していたらしい生ビールが六つテーブルに並べられる。
 アルコールを大学一年で堂々とというのは、佑人としては多少抵抗はあったのだが、既に大学関連の飲み会で慣らしてみんな当然のような顔をしている中で自分だけ一抜けするのも今更だ。
 いや、このメンツに限っては大学関連だけではないだろうが。
「よっしゃ、再会を祝して!」
「再会とか、てめぇだけだ、甲本!」
「るっせ、何でもいんだ、カンパイー!!」
 野太い声を合図に、ガタイのでかい男たちが次から次へと飲んでガツガツと食う。
「おい、佑人、お前食ってるのか?」
「食べてるよ。お前と比べるなよ、身体のでかさが違うんだから」


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