空は遠く266

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「先生、ありがとうございました」
「おう、熱は下がったが、まあ、無理するな」
「はい」
 シャツの上にカーディガンを羽織った佑人はそのまま力の横をすり抜けてドアに向かう。
「おい、ちょっと待てよ!」
 思わず佑人の肩にかけた力の手を、佑人は咄嗟に振り払った。
 一瞬、佑人は力を見たが、すぐに目をそらす。
「風邪が移るぞ。明日は学校行くから」
 さすがの力も目一杯拒否られたと感じて、それ以上何も言葉が出てこなかった。
「おい、力、入れ。昼前はお前で終わりだ」
 宗田に呼ばれて、力は診察室に戻った。
「熱があるって? 口、開けてみろ」
 宗田は喉を覗き込み、「ああ、ちょっと腫れてるな。薬出しとくから、ちゃんと飲めばすぐ治る」とすぐカルテに書き込み始めた。
「それだけかよ? そんなんだから、客、来ねぇんじゃねーのか? 前なんか診察室、いっぱいだったぞ」
「しゃあないさ。クソオヤジがいないっていうと帰っちまう客ばっかだし。クソオヤジとしゃべりが目的なジジババか、そいつらが連れてくる孫とかガキとかだろ」
「フン、まあ、俺には関係ねぇけどな。ジジイ、どうなんだよ、腰」
「さあ、来週あたりには仕事もやれるんじゃねぇか?」
 力の中でさっきからまたモヤモヤしたものが広がっていた。
「どうした? もう、いいぞ?」
「ジジイが復帰したら、あんた、どうすんだ? また日本出るのか?」
「ああ? 俺か? 俺はまあ、しばらくはここにいる。オヤジ一人にしておけねぇって姉貴にも釘刺されてるしな」
 宗田は立ち上がって、「さあて、昼飯にすっか」と大きく伸びをした。
「美和ねぇ、今、どこにいるんだ?」

 


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