春の訪れとともに『GENKI』のメンバーもそれぞれが進級した。
「それもこれも、元気とみっちゃんのお陰!」
マサが拝むように顔の前で手を合わせてみせる。
「あら、あたしのノートのお陰もあるっての忘れないでね」
「うわ、はい、優花様サマ、恩にきてますって!」
優花にも、ははあ、とマサは大仰に拝む。
マサももちろん一平もろくに授業は出ない。
インディーズでの人気と反比例して、学業の方はおろそかになる一方だ。
そこは要領よく講義をとっていたみっちゃんと元気が彼らの救い主だった。
彼らの元にあった高い教科書からノートまでが、そのままマサにスライドした。
一平など元気と同じゼミでなければ、そのまま在籍しても全く意味がなかったくらいだ。
「元気ぃ、奥野の人類学とってたよな? 確か」
ここにも面倒ばかりかけている後輩が一人いた。
「俺は卒論で忙しい四年生なんだ」
あざみ野の自宅から大学に通っていた豪は、何かにつけて、元気のアパートにやってくるようになっていた。
「いや、ノートさえ、貸してもらえればもう」
「何でめんどっちー奥野なんかの講義とるんだ」
「いや、だって、ほら、人間のルーツとか、カメラやってると気になったりするじゃん。元気こそ、そのめんどっちーのとってたんだろ」
勝手知ったるで、豪は湯を沸かし、お茶をいれる。
その頃ハーブティーに凝っていた元気は、お茶の種類もいろいろと揃えていた。
豪はその中でもカモミールティーを気に入っていた。
「癒し系だー、和むなー」
勝手に淹れたお茶をすすりながら、呟いている。
つくづく甘いな、と思いつつも、元気はノートを探し出して豪に渡した。
その時、豪のジーンズのポケットで軽やかなメロディが鳴った。
「鳴ってるぞ、携帯」
「ああ、いいんだ、優花だから」
のんびりとお茶をすすっているうちに、メロディが終わる。
そんなことが以前にも何度かあった。