煙が目にしみる25

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 再び鳴るので豪は億劫そうに携帯を取り出すが、「今、仕事中だから」などと言ってすぐに切ってしまう。
「何が仕事だよ。俺の部屋にきてゴロゴロしてるくせに」
 元気は呆れた顔を向ける。
「たまにはリラックスしたい時ってあるだろ」
「俺の部屋はお前の癒し系グッズか」
 ライブの打ち上げの後などは、もう電車がないからという理由をつけて、必ずというほど元気の部屋に泊っていった。
「いいじゃん、今夜から蒲生さんについて北海道なんだ。キタキツネ、ぜってー撮る! ヒグマとかも、遭えるかなー」
 わくわくと、これから遭遇するであろう動物たちのことを、豪は夢見るように語る。
「ヒグマに遭ったら、のんびり写真なんか撮ってるんじゃない、逃げろよ」
 出くわしてもほんとに写真を撮っていそうだと元気は笑う。
「一週間も、元気の顔見られないんだよな」
 何気なく放った豪の言葉に、机に向かい、ノートパソコンのキーボードを叩いていた元気の手が止まる。
 ふと感じた不可解さ。
「お前それって、優花に言えよな」
「優花はいいんだよ。それよりさ、元気、就職とかどうすんの? 今のバイト続けるのか?」
「カテキョやってる子の親が小さい広告代理店やってて、入らないかって言われてるんで多分そこ行く。バンドやってることもわかってくれてるし」
 優花はいい、ってなんだよ?
 元気が不可解さを消化できないうちに、違う話題になっていた。
「え、もう内定してんのか? どうりで就活やってないと思った。さすが元気、人受けいいからな」
 部屋の真ん中に置いたテーブルの横に寝転がっていた豪は、ガバッと体を起こし、腕組みしながら妙に感心する。
「人のことより、お前、時間大丈夫なのか?」
「うわ、もう二時じゃん」
 慌てた豪はバタバタとドアに向かう。
「んじゃ、土産楽しみにしてて」


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