夏を抱きしめて13

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「身長がおありですから、ほんとによくお似合いですわ、お客様」
 イタリアンブランドのフォーマルスーツを試着した元気が出てくると、年配の女子店員は元気が来たときとはうってかわって褒めちぎる。
 元気は冷静に鏡の前で小首を傾げる。
 確かに似合わないではない。180そこそこだが細身で男性にしては繊細で均整のとれた肢体は纏うものを選ばない。
 だが。
 まるで夜のお兄さん、ってとこだな。
「すみません、そっちのスーツも試着してもいいですか?」
 大手の銀行員の結婚式だし、ごくありきたりのどちらかというと渋めのフォーマルの方が、洗練されたデザイナーズブランドなんかを選ぶより利口というものだ。
 夏に着るようなフォーマルウェアは持ち合わせておらず、母親にも言われた。
「もう、いい年なんだから、元気もちゃんとしたものを持っていないと」
 にしたって、真夏に結婚式なんかやるなよな~
 一ヵ月ほど前に届いた招待状に、あの時は何も考えず、出席に丸を書いて出してしまった。
 子供の頃からそうだったが、バンド活動でも学内でも適当にやっているようで手を抜かない元気には友達が多い。
 わざわざ結婚式に東京まで出てきたのも、あまり音もわからないくせにライブによく足を運び、元気に懐いていた大学の同期、佐野の晴れの日だからこそだ。
「佐野のやつ、急遽、ドイツ赴任が決まったらしい」と知らせてくれた江川や毛利にも披露宴で久しぶりに会うことになっている。今もつき合いのあるこの二人とはくされ縁というやつだろう。
 兄の家に持っていくケーキやワインを買っているうちに、ズボンの裾出しのお直しもできたので、元気はそれを受け取ると、たったか地下に降りて田園都市線に乗る。

 


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