ACT 3
本気で、うだっちまう……!
元気はふう、と大きく息を吐く。
久しぶりに味わう東京の夏はまた一段とヒートアイランド化して、しかもジャリ化している気がするのは年をくったせいなのか。
何で夏の東京なんかにきちまったんだろ、俺ってバカ?
半年前、真冬に来て寒い東京を歩くはめになった時も確か自分を罵った気がするが。
八月に入ったばかりの渋谷で、人ごみに突っ立っていると、思わずクラクラしそうだ。
年季の入ったジーンズに黒のタンクトップ。履き慣れたスニーカーで身軽にやってきた元気だが、さりげなくつけているCHクロスのペンダント、ピアス、ケルティックのリングはクロムハーツで、豪のロスアンゼルス土産だ。
傍らを通り過ぎる者が大概元気を一瞥していくのは何者? なオーラを知らず振りまいているからで、胡散臭そうに見えるんだろう、と思っているのは当の元気だけである。
「紳士服、紳士服……っと」
やっとたどり着いたデパート案内の前で腕組みをして目的のフロアーを探す。
「すみません、フォーマルウェアはどちらですか?」
とにかく暑いので、地下のショップでチューリップ帽を買って被っているのだが、サングラスをかけ、肩を越す黒髪を後ろでゆわえている元気はやはり怪しく見えるに違いないと思う。
比較的空いているメンズフロアでエレベーターを降りた元気に、一瞬怪訝な表情を見せた熟年の店員はそれでも「こちらです」と元気を案内する。
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