いや、意を決するほどのこともないはずなのだが。
時間は午後九時。
仕事かもしれないが、それなら留守電にメッセージだけでも入れておこう。
元気は豪の番号を呼び出し、ボタンを押す。
コール音が三回ほどした時、つい元気は切ってしまう。
「俺、何やってんだ……たかが電話するくらいで……」
再びコールする。
そして三回ほどコールした後、声が聞こえた。
『はい、ご用件はなんでしょう?』
一瞬、さーっと血の気が引いていく気がした。
『もしもし?』
元気は再び電話を切ると、すぐに電源をオフにしてしまう。
明らかに女の声だった。
どうやら、想像した通りにことが運んでいるらしい。
からだが動かない。
足が一歩も前に進まない。
思わず夜空を見上げて、大きく息をつく。
頭上にある満月が妙に明るい。
何だか笑えてしまう。
東京の月って、こんな明るかったっけ?
back next top Novels