夏を抱きしめて5
「うーん、これから店を手伝ってもらうのも考えものだな」
母にともなく、なんだかあまり考えもせず、元気は口にした。
スクープが気にならない、というわけではない。
さもありなん、というのが素直な感想だ。
「なんなのよ、たかがちょっと写真とってもらったくらいで、あの女!」
「まあ、男ならあんな女を前に手を出すなってのが無理かも」
きりきり息巻いている紀子は、「何よ、それ!」とくってかかる。
「いやあ、俺も人のことを言えた義理じゃないしな~」
過去の行状からして。
寄れば食う、去る者は追わず、なんて時代もあったし。
「ったく! どいつもこいつも! だから男ってイヤ!」
怒りの渦は、収まりがつかないようすだ。
「男ってイヤ、か…」
仮に豪と彼女がそういうことになったとしても、それもありか、と元気は苦笑する。
来る者は拒まずとはいえ、相手がいる場合は別だ。
元気はヒトのものを盗ろうと思ったことはなかった。
それが、結果的に当時豪とつき合っていた優花から豪を奪うカタチになってしまった。
しかもそんな豪を一度は捨ててこの街に逃げ帰ってきた自分に、井上美奈子とのことをやっかむ資格はないだろう。
だが、目の前でいちゃつかれているわけではないから、冷静そうにそんなことを考えられるのかも。
さしずめ、船乗りの夫の帰りを待つツマ、といったところか。
って、アホか、俺は!
「元気、元気って、電話!」
一人突っ込みをして自分に呆れていた元気は、紀子の声にようやく我に帰る。
「豪から。ちゃんとびしっと言いなさいよ!」
世話焼きおばさんのような口調で、客の手前小声で元気の耳に囁く。