夏を抱きしめて6

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『元気! 誤解すんなよ! 俺は潔白だからな』
 電話の向こうで、豪が声を張り上げる。
「そんなでかい声出さなくても聞こえる」
 努めて静かに、元気は言った。
『だってさ、あの店だって、井上美奈子がマネージャーと一緒に食事しようっていうから、俺、行っただけなんだぜ? それが店出た途端、マスコミの連中、待ち構えていやがって…』
「仕事中にわざわざ電話するようなことか。切るぞ」
『…だって元気、携帯出てくれねーし』
「店にいるのに、んなもん切ってる。とっとと仕事しろ」
『あ、おい、元気ぃ~』
 情けなさも極まれりな豪の声を最後にガチャン。
「ちょっと、元気!」
 何かまた言おうとした紀子だが、ちょうど四、五人のグループががやがやと店に入ってきたため、きっと元気をひと睨みして無理やりの笑顔でオーダーを取りにいく。
 東京から引き上げてきて以来、元気は携帯などきっぱり持っていなかった。
 先日、豪がプレゼントと称して最新式の携帯を置いていくまでは。
 昔ならじゃらじゃらとストラップをつけた、まみとかゆうことかさとみとかいう名前が入った携帯がポケットに欠かさずはいっていたものだが、いかんせんここのところの元気にとって今時の進みすぎた機能はやたらうざいばかりで、メールはおろか電話機能自体滅多に使われずに電源が切られたままだったりする。


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