バレンタインバトル13

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「お、良太! 元気かぁ!?」
 よもやまた新手の誰かかと慌てた良太だが、小笠原の能天気そうな顔を見て、ちょっと胸を撫で下ろす。
「ありゃ、真帆、何やってんだ、お前、こんなとこで」
 真帆を見つけて、小笠原は聞いた。
「あたしは工藤さんに用があってきたのよ」
 小笠原は真帆とそれから芽久の顔を眺めまわし、ははあ、と言った。
「なあるほど、工藤を巡って肉体派女優黒川真帆と元カリスマモデル山之辺芽久の一騎打ちってとこ? こりゃ、マスコミにもちょっとネタだな」
「失礼なこと言わないで!」
 にやにや笑いながら言う小笠原に、芽久がくってかかる。
「あんたには関係ないでしょ!」
 真帆も声を荒げて今度は小笠原を睨む。
「ほんとにならないとも限りませんよ? いや、そんなことになったら、工藤にいたっては怒り心頭でしょうけどねぇ」
 良太は小笠原の後ろから、さらりと言った。
 するとようやく少し二人の顔色が変わる。
「え、やめてよ、わかったわよ、帰るわよ。ちゃんと渡してよね、良太、工藤さんに!」
 真帆が紙袋とメモを良太に押し付けて出て行こうと踵を返した時、マネージャーの石倉が飛び込んできた。
「真帆さん! 何やってるんですか、ここで! スタジオ行く前に部屋に寄るって言ってたのに」
「うるさいわね、今行くわよ」
 ドアを閉める間際、真帆はくるっと芽久を振り返り、ジロリッと思い切り睨みつけた。
 芽久は、それをフン、と鼻で笑って見ていたが、しばらくすると彼女のマネージャー中井がやってきて彼女を連れて帰った。
「やーっと帰ったか? うっぜー女ども」
 小笠原はハハハと笑いながら、いつのまにかちゃっかり鈴木さんに良太の母が作ったチョコレートケーキを出してもらって食べていた。
「うっまい! お前の母さん、すげぇな」
「そんなの、誰でも作るだろ?」
「いや、俺、母親の手作りなんて、食ったことねぇもん」
「え?」
「俺んち、母親、ガキの頃は父親のマネージャーでくっついてあちこち行ってたし、中学の頃は身体壊して入院してたりで、メシはばあちゃんでさ、ケーキなんてケーキ屋のしか食ったことなんかねぇからな」
 良太は能天気な小笠原の意外な面を見た気がした。
 そういや、沢村も家族が一緒にいることなんか滅多になかったとか言ってたな。
 家族というものは一家団欒、母親の手作りのご飯を囲み、子供が喧嘩をすると母親がたしなめ、仕事を終えた父親は母親の晩酌でテレビの野球放送を見て野次をとばしたりする。
 それが普通だと思っていた。
 突然、家や工場を取られ、父母が温泉旅館で住み込みで働くようになってからも、盆暮れ正月に良太や亜弓が行けば、そこにもごく普通の家族の日常が戻ってくる。
 工藤にしても中学の時から家族といえば平造だけで、まあ、平造の料理の腕はプロ並みなので、そこのところは問題はないだろうけど、ごく普通の家族がごく普通にあると思って生きてきた自分は、金はなくても幸せだったといえるのかもしれない。
「あ、そうそう、これ」
 小笠原は持っていた紙袋を良太の前に差し出した。
「あ? 何だよ、これ」
 紙袋を開くと、中には箱入りの高級ウイスキーが入っている。
「またまた~、俺とお前の仲じゃん、バレンタインデーのプレゼントに決まってるじゃん」
 いきなり肩に腕をまわされたが、良太はその腕をゆっくりと除ける。
「どういう仲だよ」
「いやさ、明日、どうせ暇だろ? 俺、久々のオフだし、一緒に飲もうぜ」
「どうせ暇って何だよ、俺はいろいろやることがあるんだよ。それに、せっかくの休みでしかもバレンタインデーなら、彼女とじゃないのか?」
 何人かのはた迷惑な訪問者のお陰で中断していたデスクワークに戻るべく、良太はパソコンの画面に向かう。
「お前さ、この激務の中、彼女作る暇がどこにあるって? アスカとかお前はこないだスキー休暇を目一杯楽しんできたらしいけどさ」
 それを言われると、良太もちょっとだけ申し訳ないような気もしないでもない。
「だったら、余計、明日はひょっとして彼女ができるかもしれない絶好の機会だろうが? ちゃんとしたお付き合いってなら、記者会見でも何でもやって、正々堂々つきあえばいいじゃん」
 アイドルタレントとは一線を画す仕事ぶりだし、チャラ男のイメージも払拭され、逆にここのところ浮いた話一つない小笠原だ、きちんとした付き合いであればむしろ好感度もあがるかもしれない。
「そりゃまあ、そんな相手がいればな」
 ソファにだらしなくもたれかかって、小笠原がぼやく。

 


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