バレンタインバトル17

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 携帯は良太の手元にあるが、ワルキューレがとんと聞こえてこないのが物足りない。
「ま、いっか、明日の夜は東洋グループのパーティだから否が応でも顔を合わせるんだし……」
 沢村が送ってきた日本酒は辛めだが飲みやすかった。
「やっぱ、あったまるぅ」
 おでんをつつきながら弁当を半分ほど食べたところで、身体がほんわか温まってきた良太は、うつらうつらしているうちに眠ってしまった。
 だから、しばらくしてドアが開いたのも気づかなかった。
「また、うたた寝してるのか」
 つけっぱなしのテレビを消し、しばらく炬燵の上にあるものを見回していた工藤だが、起こすのも可哀相だと、傍らにあったダッフルコートを良太の上にかけ、そのまま部屋を出ようとした。
「へ……? 工藤?」
 座布団に横になっていた良太は、気配にはたと顔をあげたが、アルコールと起きぬけの頭でしっかり状況を把握できない。
「寝るんならベッドに入れ。すぐ風邪を引き込むくせに」
「………飛行機、動いたんですか?」
「ああ、午後も遅くになってようやくな」
 工藤の機嫌があまりよくないらしいことは、良太も感じ取る。
「おつかれさまれした。じゃあ、まあ、社長も一杯いかがっすか? 熱燗、あったまりますよぉ! おでんはもう冷めちゃったなぁ」
 良太は起き上がって座布団の上に座ると、へらっと工藤に笑いかける。
「今、カップ持ってきまっす」
 立ち上がるのだが、ふらふらと良太の足元はおぼつかない。
「おい、良太」
 だが、聞こえていないようで、良太はキッチンからたまに工藤が使うマグカップを持ってくる。
 工藤は炬燵の上にあった日本酒の瓶を取り上げて、少し眉を顰めたが、また戻した。
「結構美味いれすよ、これ」
 良太は自分のカップにもかぱかぱと注ぎ、一つを工藤に渡して、「かんぱーい」とひとりでちょっとはしゃいでいる。
 工藤は仕方ないとばかりにベッドに腰を降ろした。
 羽田から真っ直ぐオフィスに戻ってきた工藤は、灯りが消えているのですぐに自分の部屋に向かった。
 リビングのテーブルには良太が仕分けした工藤宛のプレゼントの山と、良太が丁寧に作ったリストが載っていた。
 上着とネクタイを取ってから、良太を前田の店にでも連れて行くかと隣のドアをノックしたが応答がないので中に入ってみたのだった。
 酒を飲んで一杯機嫌で炬燵に眠ってしまっている良太を見て、そのまま寝かせておこうと思ったのだが。
 静かになったと思えば、隣にボスンと腰を降ろした良太がカップを持ったまま、目を閉じている。
「こら、良太」
 あやうくその手から落ちそうなカップをとりあげた工藤は、自分の手にある酒を飲み干して良太のカップと一緒に炬燵の上に置いた。
 ゆらりと良太の身体が揺れて工藤に凭れかかった。
 工藤はやんわりと良太の肩を抱き寄せた。
 小杉と連絡を取った時、「よくやってますよ、良太くん、あの面倒な脚本家や監督と」とさりげなく告げられた。
 何とか切り抜ければいいくらいに思っていたが、案外、工藤の助けも求めようとはせず、芽久のこともうまくあしらっているようだった。
 おまけにバレンタインだか何だか知らないが、くだらない雑用までやらせることになってしまった。
 いい加減プレゼントごっこはやめにしたらどうだ、と声を大にして言いたいところだ。
 このプレゼントごっこも景気の一端を担っているのかもしれないことはわかっていても、誰がこんな面倒なことを考え出したんだか、と工藤は口にしないではいられなかった。
 

 


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