いつかそんな夜が明けても4

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 MBCでは小林千雪原作の弁護士御園生シリーズの制作は青山プロダクションだが、KBCの場合、工藤プロデュース、広告代理店英報堂関連のEプロモーションの制作となっているから、動き方も変わってくる。
「いい経験をさせてもらって、ありがたいと思え」
 どうやら電話を終えたらしい工藤がコートを掴んで立ち上がった。
 実を言えば山之辺芽久の一件もあり、自分が関わることでまた良太に余計な思い過ごしをさせてつむじを曲げられるのが困るということが第一にあった。
「あと少し上にいる。明日の朝は大阪へ直行するからな。何かあっても特別なことがない限り、お前の判断で行け」
「何だよ、それぇ、無責任とか丸投げって言わないですかね!」
 良太の悪態を無視して工藤がオフィスを出ると、と良太はひとり、ちぇっと思う。
 まあ、それだけ工藤から信頼されていると思っていいのだろうか。
「それじゃ、良太ちゃん、お先に」
 コートを羽織った鈴木さんに、お疲れ様と声をかけ、何とはなしに外を見ると、雨は強くはないがしとしとと降り続いているようだ。
 良太も一時間ほどで仕事を片づけてオフィスを出ると、エレベーターで自分の部屋に向かった。
 良太の部屋は七階にあり、一応社員寮という名目で入社一年目頃から良太はそこで暮らしている。
 社員寮といっても、良太が会社に対して納めているのは諸経費数千円のみで、もとはといえば親の借金を背負った良太が取り立てに追われているのを知った工藤が、勝手に良太のアパートから猫ごと家財道具を遊ばせていたプライベートルームに運び込んで住まわせたものだ。
 言い分けをするならば、工藤が肩代わりしてくれた借金のために、良太が社長と社員以上の関係になっている、というわけでは決してない。
 何も好き好んで男の愛人を作らねばならぬほど、ほっといても女が群がったという噂のある工藤が相手に困っていたなんてわけは露ほどもないのだから。
 でもやっぱ、面白がってたんだろうな、はじめのうちは、とは良太も思う。
 今も工藤の愛情が全面的に良太に注がれているとは思っていないが、そのかけらくらいはあるとはわかっているので、例えそれが横暴で独断的で勝手なものだとしても、先ほどのアスカのあてこすりを思い出しながら、しょうがないじゃん、あんなオヤジが好きなんだからさ、と良太は呟いてみるのだった。
 ドアを開けると、未だに馴染めきらない家具調度が揃った部屋の中から、長年のつきあいであるナータンとこの世に生を受けてまだ二カ月ちょっとのマメ猫が飛び出してきた。
 先月、小林千雪が拾ってオフィスに持ってきたうちの一匹で、ナータンがよく面倒をみてくれている。
 マメ猫には一日数回に分けてご飯をやった方がいいという千雪の進言に従い、こういう時は会社の上に住んでいてよかったと思う。
「これから銀座で接待だっけ、工藤」
 実はクラブなども工藤が苦手らしいとは最近になってわかってきたことだ。
 北海道は札幌から九州は博多まで、要所要所に馴染みのクラブのママさんがいるらしいとは、秋山から聞いたことがあるし、実際一人か二人には良太も会ったことはあるが、業界で言われているような艶聞はあまりなさそうだ。
 会ったといっても、たまたまで、どうやら工藤はあまり良太に喜んで紹介してやろうという気はないらしいが。
 工藤はもう出かけたのだろうか。
 またここのところ工藤とはすれ違いが多く、さっきのようにちゃんと顔を見て話す時間がないため、携帯で連絡を取る程度だ。
 しかも必要事項のみ。
 悪態もつけないんじゃ、つまんないじゃん。
 良太はいない相手に向かって呟いた。 

 


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