いつかそんな夜が明けても3

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 昨年秋、アスカが起用された美聖堂のCMが当たり、それに便乗した美聖堂がメインスポンサーのドラマが、アスカ主演で撮影に入ったところだ。
 最近のコミック原作ドラマばやりの中、『遠い灯』というベストセラー小説が原作のこのドラマは、同じ男を愛した母と娘の愛憎劇で四月からオンエア予定である。
 テーマに新鮮さはないが、奔放な母と一途な娘の葛藤がつづられたこの小説は、新聞に連載されたせいか、意外や中高年のサラリーマンの間で火がつき、OLや主婦層の読者を取り込んで評判を呼んだ。
 ただし、キャスティングの打診の際、母親役にベテラン女優の山内ひとみを起用することになったものの、ひとみの『いくらなんでもアスカの母親役はないでしょ?』という苦言のお陰で脚本は原作と異なる路線を選択せざるを得なくなった。
 母娘の設定が年齢の離れた異母姉妹の設定に変わり、さらにアスカのキャラからして一途で健気というヒロインは一途で勝気というキャラに変貌した。
 ここまで原作を変えてしまうとなると、作者の前島亮三氏の同意なしでは進められない。
 了承を取り付けてこい、と命令してとっとと海外に発った工藤の代理で、気難しい男だと聞く前島の自宅に出向いて頭を下げたのは良太である。
「ったく、厄介なことばっか押しつけやがってさ」
 前島の住む鎌倉に向かう車の中でブツブツ文句をたれながら果たして了承を取り付けられるだろうかと不安な面持ちで、前島が好きだという芋焼酎と菓子処「やさか」の菓子折りを手土産に恐る恐る良太は用件を切り出した。
 あにはからんや、山内ひとみの大ファンだという前島は、ひとみがアスカの母親ではかわいそうだとあっさり納得してくれたので、良太もほっと胸を撫で下ろしたものだ。
 ヒロインはアスカのキャラが濃く出たものとなったが、結構それをスポンサー側は気に入ったようで、これで万事うまくいくと誰もが思った。
 その矢先、アスカと相手の男の娘役で共演する黒川真帆との間でバチバチと火花を散らすことになったのだ。
「第一、誰が好き好んであんなオヤジとどうにかなろうなんて思うわけ?」
 ひとみとアスカの姉妹に愛される男の役には、渋い二枚目俳優の片瀬正雄が決まったが、工藤へのアスカのぼやき攻撃が止まらない。
「あら、私、すごく好きですよ、片瀬正雄。最近、よくCMなんかにも出てるでしょ? うちの娘もすてきだって言ってましたよ」
 鈴木さんが黙っていられないとばかりに口を挟む。
「あらそお? でもねぇ、あ、そっか、良太にレクチャーしてもらえばいいのか、オヤジとつきあうのは得意だもんね」
「もう五時半です。アスカさん、スタジオ行った方がいいんじゃない? 今夜、ナマ入ってるんじゃなかったっけ」
 あてこすられ、良太はさりげなく話題を変えたつもりだが、つい耳の辺りまで赤くなったを工藤には知られたくなくて、思い切りモニターの画面を睨みつける。
「ええ、ウソ! ちょっと腹ごしらえしてから行こうと思ったのにぃ」
 アスカが不服そうな顔で立ち上がる。
「君が無駄話をしてるからだろ? 途中でカロリーメイトでも仕入れて行こう」
 翌日のスケジュール確認を済ませて電話を置いたマネージャーの秋山に急かされてアスカが出かけると、工藤が電話越しに怒鳴る声だけがオフィスに響く。
「良太ちゃん、明日は出ずっぱりですって?」
 テーブルの上のティーカップを片づけながら、鈴木さんはキーボードを黙々と打ち続ける良太を振り返った。
「ええ。そうなんですよぉ。KBCのドラマ、脚本家の先生とディレクター、ちょっとトラぶってて。人使いの荒い上司は丸投げしてくれるし」
 アスカにあてこすられた腹いせのように良太はぼやいた。

 


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