桜の頃 8

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「知ってるんやで? 俺は。生徒会ずっとやっとったからな、いろんな情報が耳に入ってくる。お
前が千雪の知らんとこで、えらい目におうてたのも」
 研二は黙り込む。
「俺は、お前も大事なダチや思とる。せやから言うんや。お前が何で金沢選んだか、俺はわかる気がする。けど、ほんまにそれでええんか? お前は」
「ええも悪いも、これしかないんや」
 きっぱりと研二は言った。
「きっついな、お前」
 三田村は静かに言った。

 

「えええ、小林先輩、誰にやらはったんです? 第二ボタン!」
「答辞読まはった時、もうなかったきぃする!」
「うっそー」
「小林先輩、うちと写真撮ってください!」
「うちも!」
 各クラスの記念写真が終わったあとは、携帯をかざした在校生卒業生入り乱れての別れの挨拶で騒然となった。
 しかも、人気のある卒業生の周りには下級生がどっと押し寄せ、もみくちゃになった。
 案の定、一年、二年の女子に囲まれていた千雪だが、今度は剣道部の連中が取り囲む。
「先輩ぃ、俺らと一緒に記念写真お願いします!」
「ちょお、待て、て、引っ張るな、こら」
 でなくても、勝手にあっちこちで携帯に撮られている。
「千雪!」
 そこへ研二がやってきて、千雪を下級生の群れの中から引っ張り出してくれた。
「ふう、参ったで」
「やっぱ、心配になってきた」
「せやから、完璧な秘策があるんやて。心配せんでええ」
 研二を見上げて、千雪は断言する。
「あてにならんな」
「大丈夫やて。あちこち挨拶すんだ? 研二」
「済んだ」
「ほな、もう帰ろ」
「ああ」
 二人は並んで、懐かしい学び舎をあとにする。
 電車の中では、二人とも無口になり、たまにぽつりぽつりとどうでもいいことを口にする。
 いつもの道を、家へと向かう。
 やがて研二のうちである『やさか』の看板が見えてきた。
 研二は金沢では老舗の菓子屋でバイトをする、という。いずれは三代目を継ぐと決めているからだ。
 研二のうちから三軒先に、千雪の家の古い門が見える。
「ほなな、あとで」
「おう」
 歩き出した千雪の背中に、「千雪」と研二の声がかかる。
「何?」
「あんな、もし、何かあっても、俺がついとるからな、がんばれ」
「何やねん、あらたまって。ほな、同じことを俺もお前に返すわ」
 千雪は笑い、手を振った。
 研二も手を振った。

 ―――もう随分昔のことになる。
 だが、未だに色褪せることなく、二人の胸の奥に焼きつけられた心象風景――――。

 やがてグラウンドの桜が花を咲かせる頃、二人は金沢と東京で新たな一歩を踏み出した――――。
                           

 (小林千雪と黒岩研二の高校時代のエピソードです)


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