西岡の顔からして、無罪放免という雰囲気ではなかったが、千雪は工藤とともに警視庁をあとにした。
「言うとくけど、小説の映画化の話なんて、俺にはもう終わった話やし」
外に出てすぐ、千雪は工藤に念を押すように言った。
「俺の嫌いな言葉は、諦める、だ」
「俺の嫌いな言葉は、ごり押しと強姦魔、や」
「アリバイが証明されてよかったじゃないか」
「あと、恩着せがましい、てのも嫌いや」
「何でまたメガネをかける?」
「ついくせで」
「実は小林千雪の正体は、とか記者会見でもやるんなら、いつでもセッティングしてやるぜ?」
二人がああいえばこういうの応酬で歩いていると、車がすっと近くに来て停まった。
タクシーを拾おうとしていた千雪は、何気なく目をやって、派手なスポーツカーから降り立った男に気づいた。
「京助」
たかだか二日ほどのことなのに、千雪は妙に懐かしささえ覚えて京助を見た。
だが、二人の前に立ちはだかった京助は、険しい表情をしていた。
「疑いが晴れてよかったじゃないか。こいつと軽井沢くんだりにしけこんでたって?」
おそらく渋谷に連絡を入れて確認したのだろう。
険のある言い方に千雪は眉を顰めた。
「帰るんだろ? 乗れよ」
京助は車へ促した。
「…遠慮しとく」
一瞬、そのまま京助の元に帰ってしまいたい衝動にかられたものの、千雪は逆の言葉を口にしていた。
「おいおい、まさかマジでそんなオヤジに乗り換えたなんてわけじゃないだろ?」
苦々しい表情で投げつけられた皮肉に、千雪は苦笑した。
半分は正解か。実際、寝たんやしな。
「俺が何しようと、お前には関係あれへん」
背を向けようとした千雪の腕を、京助は思わず掴む。
「俺から逃げようってのか?」
振り向くと、京助の目とまともにぶつかった。
何でそんな苦しそうな目してるんや。
