「京助、お前は自分の思い通りにならんのんが、許せへんだけやろ?」
「……俺は!」
京助は掴んでいる指に力を入れた。
「痛い! 京助、離せ!」
はっと我に返ったように、京助は千雪を離す。
「おいおい、往生際が悪いな、イケメンセレブの名が廃るぜ? 千雪はお前にはもう用はないって言ってるんだ」
途端、京助は今度は工藤の胸倉を掴む。
「…きっさま!!」
「京助、やめや!」
千雪の止めるのも聞かず、京助が今にも殴りかかろうとしたその時、黒のセダンが後ろからやってきて停まった。
「社長! お迎えに上がりました」
運転席から声がかかると、京助はいまいましげに工藤を睨みつけながら、腕を離す。
「悪いな、小林先生はこれから俺と小説の映画化の打ち合わせがあるんだ」
工藤は後部座席のドアを開けると、千雪を促して乗せ、自分も後から乗り込んだ。
「俺は諦めたわけじゃないからな、千雪!」
ドアを閉める間際、呻くような京助の言葉が千雪の心に飛び込んだ。
バックミラーに映る動かない京助の姿が次第に小さくなった。
まるで俺が京助を苦しめてるみたいや。
ほんで、俺も京助のことを考えて苦しいやなんて、何にもええことあれへん。
胸の中はキリキリ痛むばかりだ。
あの女の人はどないなってん?
早いとこ、目覚ましたらええんや。
男の俺なんか追いかけてたって、先がないで。
第一、家族とかいろいろ、面倒くさ過ぎる。
面倒なんはごめんや。
「それで? どこへお送りしますか? 先生」
隣で工藤が面白そうに尋ねた。
「…そやな。軽井沢でなら、映画化の話、聞いたってもええ」
