でないと千雪が朝など何も食べずに出る可能性大だったからだ。
駆け落ち同然で京都で暮らし始めて以来、当時大和屋の主人であった小夜子の祖父の怒りをかって出入りを禁止されていた小林夫妻だが、その祖父の葬式の際から許されて原家と小林家は行き来をするようになった。
小夜子は京都の小林家に遊びに行くと、その時には『やさか』の菓子を気に入ってよく店を訪れていたので、研二の両親も小夜子とは顔なじみだったから、今回披露宴に研二の菓子を利用してくれると聞いていたく喜んでいた。
千雪と小夜子が、オープンして間もない芝ビルの『やさか』に出向くと、研二の両親とは店内で逢うことになった。
「ほんまに小夜子さんには、もう、ほんまに、ようしてもろて」
「それより、まず、おめでとうございます、ですやろ」
「あ、そやそや!」
研二の両親は、小夜子を前に恐縮至極で、京都ではテレビで店のオープニングの時のようすを見て近所中で大騒ぎだったことや、研二が創った披露宴の菓子は、年季の入った職人らもうなるぐらいだったことなどをかわるがわる話して聞かせた。
「手前味噌ですが、わしも何十年菓子作りよりますが、研二の作ったもんは、ほんまにええもんになりまして、胸張ってお納めできますわ」
しみじみと研二によく似た面差しの父親、勲が言った。
「ほんとにきれいで、美味しくて、こちらこそ、素敵なお菓子を創って頂いて感謝しております。でも数が多くなってしまって、皆さんにご迷惑をおかけしたみたいで、申し訳ございません」
小夜子は申し訳なさげに言った。
「とんでもない。かえってやりがいもありますわ。それに」
勲は言葉を切った。
「お恥ずかしい話ですが、研二のやつ、嫁と別れたばっかやったよって、心機一転こっちに出てこれてよかったんやないか、思うとります」
「千雪ちゃんも、引っ越しやらなにやら、手伝ってくれたんやてな。おおきに」
しみじみと頭を下げる勲の横で、母親の留美が千雪に頭を下げた。
「水臭いわ、そんな。俺より三田村もいろいろてったってくれたし、俺らも同級生の新しい門出やよって、ほんま嬉しいねん」
やがて一仕事終えた研二が合流すると、小夜子は日本料理の老舗に案内した。
小夜子が綾小路家のしきたりなどを面白おかしく話すと、勲も留美もしきりと感心しながら食事も進む。
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