小草生月某日-3

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 時計塔の時刻は間もなく正午になろうとしていた。
 ここ数日二人とも忙しく、千雪はコンビニ弁当ならまだいい方でカップ?で食事にしたことも少なくなかった。
そんな千雪の現状をわかっていて、昨夜手が空いたからと食材を手にやってきた京助が作ってくれたポトフがまた美味しく、千雪は久々まともな食事にありつけたのだ。
 夜中に原稿を書き上げた千雪はそのまま眠ってしまったのだが、朝出るとき、持って行けと京助に渡されたコンビニの袋はずっしりと重かった。
 見ると二段重ねの八角弁当箱である。
「昼飯? お前の分も?」
「俺のはある。片付けていくからとっとと行け。教授に調べ物頼まれたんだろ?」
「あ、うん。ほな、おおきに」
 時々、おにぎりやサンドイッチなどを弁当に持たせてくれることがあるが、二段重ね弁当なんて、よほどろくな食事をしていないと思っているのだろう、と千雪はそういう京助の気遣いには口では言わないまでも一応感謝はしているのである。
 千雪は研究室に弁当を取りに行ってから学食へと向かった。
「うわ、出た! 名探偵」
「やだ、茶色に鼠色の上下スエットってあり得なくない?」
 少しくせがある髪は手でかき回すと結構周りの期待通りボワボワになるのだが、今朝は周りに配慮する余裕もなく、フード付きスエットの下は時間がなくて近くにあった黒のセーターを着てきたからファスナーを首のあたりまであげている。
 腹が減っているので周りに応えてやる気力もおきない。
 この時期、試験や補講などで結構学生もいるようだ。
 なるべく隅の方をと探した千雪は何とか席を確保した。
「あっ、いたいた、せんぱあい!」
 お前はサバンナの住人かと言いたくなるほど、はるか遠くの入り口からぶんぶん手を振っている後輩の声に、千雪はうんざりとまた眉間にしわを寄せる。


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