かぜをいたみ56

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「他に何がある?」
「どうせ闇金なんぞ、叩けば埃だらけだ、訴訟を起こすと言えば減額できる。司法試験を通ったくせに何でそうなる?」
 工藤は眉間の皺を深くした。
「正攻法でいけばそうだが、どうやら相手は俺を知っているらしい」
 工藤の言葉に小田も険しい表情になる。
「事を荒立てて、良太の家族にまで何らかの火の粉が飛ぶのは避けたいからな。それと、金輪際良太や家族に近づかないってな誓約書を作ってくれ」
「うん、まあ、わかった。この先お前の会社に快く入ってくれる社員なぞ望めないだろうしな、せっかくあんないい子が入ってくれたのに、彼、フットワークがよくて何ごとにも吸収力が半端ないだろう。何よりお前とはうって変わって明るくて人好きのする、願ってもない社員だ。みすみす手離すような真似はしない方がいい」
 言いたいことを言ってくれた小田は、それでも良太や家族の身辺を調査すると言って工藤を送り出した。
 翌日九時には『サンケイ株式会社』の事務所の前にアタッシェケースを手に工藤は立っていた。
 高遠は昨日のうちに、工藤の要望の三千二百六十八万四千百九十一円を耳を揃えて用意してアタッシェケースを工藤に渡した。
 事務所のドアを開けると、中にいた者が一斉に工藤を見た。
「工藤だ」
 一言言うと、派手なスーツを着た若手が、「こちらです」と語尾をひっくり返しながら社長室へ工藤を案内した。
 事務員らしき若い女はまさしくキーボードの手を止めたまま、工藤を凝視していた。
「これはこれは工藤さん。初めまして、平岩です」
 椅子にふんぞり返っていた平岩は自ら工藤をソファに促すと、「わざわざむさくるしいところにお越し頂いて…」云々としゃべりかけたが、「金だ」とその言葉を遮って工藤は無造作にテーブルに置いたアタッシェケースを開いた。
 しゃべりかけていた言葉を飲み込んで、平岩の目は札束に目をくぎ付けになった。
「確かめないのか?」
 工藤が言うと、若手よりは少し年かさの男が札束を確認し始めた。
「借用書と領収書」
 単語だけを並べる工藤を見て平岩は慌てて、「おい」と別の年かさの男に指示した。
 先ほどの事務員の女がお茶を運んできたが、アタッシェケースを見て、それからまた工藤を見た途端、茶碗をひっくり返してお茶が工藤のズボンにかかった。
「も……………申し訳ございません」
 九十度以上も腰を折る事務員に、「何をやってるんだ、バカ者! とっとと片付けて、新しいお茶を用意しろ」と平岩が怒鳴りつけた。
「茶はいい。こっちは忙しいんだ」
 ことさら凄みのある声で工藤は言った。

 


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