かぜをいたみ55

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 電話に出た男が「社長の平岩ですが」と言ってからしばし間があった。
「広瀬さんが工藤さん、のところの社員とは存じ上げませんでしたが、どういうご用件で?」
 語尾がひっくり返ったことだけでも緊張が伝わってくる。
「広瀬が借用している金額を教えてください」
 すると、男が慌てて部下に何か言っているのが聞こえたが、やがて平岩は、「えっと…、三千二百六十八万四千百九十一円………今現在の金額ですが……」
「わかりました。明日の朝イチで全額支払いに伺いますので、借用書と領収書を用意しておいてください」
 言葉自体は慇懃無礼なくらい丁寧だが、声や口調に凄みを持たせて工藤は言った。
「は……い、承知しました」
 また語尾をひっくり返して答えるのを最後まで聞かずに工藤は携帯を切った。
 路上で凄んで電話をしている工藤を、通りがかった人々は思わず遠巻きにして足早に去っていく。
 それからまた工藤は一件電話をかけた。
「俺だ。これから行く」 
 相手が返事をする前にたったか携帯を切ると、近くのコインパーキングに停めていたベンツに乗り込んで半蔵門へと向かった。
「一体今度はどんな厄介ごとを持ち込んできたんだ?」
 半蔵門駅近く、古いビルの二階にある小田弁護士事務所の応接セットに長い脚を組んで座る工藤に、小田は皮肉めいた言い方をした。
 事務所に通されてからかれこれ三十分、相談客の話が長引いた分待たされた工藤は、苛つきながら小田を見た。
 悪態返しをしたいところだが、ことは急を要するため、工藤はすぐと要件に入った。
「良太が借金を抱えている」
 すると小田は向かいの古びたソファに凭れて言った。
「どうやらお前のところには、何かしら面倒ごとを抱えた人が集まってくるみたいだな」
 工藤は鈴木さんから聞いた良太の家の事情や良太が借金のために手を出したバイトでボコられて入院していることなど知っている限り説明した。
「良太の父親のことをとにかく調べてくれ。できれば逃げたご友人のこともわかれば有難い」
「それはいいが、良太くんをどうする気だ?」
「どうするも何も、そんな余計なことに煩わされて、これ以上仕事が滞るとか冗談じゃないからな。明日、事務所に行って借金をチャラにしてくる。散々待たされている間に、横浜の高遠に金を持ってくるように言った」
「横浜の高遠? お前のポケットマネーで支払うのか?」
 横浜にある曽祖父の頃からの工藤家のメインバンクには、工藤個人の口座があった。

 


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