かぜをいたみ54

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 バーテンダーが工藤を案内したのは、店からほど近い古いビルが立ち並ぶ中の一つで、工藤に促されてバーテンダーは階段を上がると、二階には、ドアに『山本企画』というプレートがかかっていた。
「すんません。山本さん」
 バーテンダーは一度ノックをしただけでドアを開け、声をかけた。
「何だ、野村」
 ワンフロアワンルームの広くもない古い室内には、あちこち綻びがあるソファとテーブルが置いてあり、その向こうのデスクにふんぞり返った男が一人いるだけだった。
 いかにもな縦縞のスーツを着たちょび髭の山本は、野村のあとからズカズカと入ってきた大柄な男を見て、「お客さんかよ」と言った。
「お前か。広瀬良太に実入りのいい仕事を斡旋したのは」
 突然胸倉を掴まれて壁に叩きつけられた山本は苦しがって手足をじたばたさせた。
「離せ! 誰だ、てめ!」
 工藤が締めあげると、良太に紹介したのは二人だと言った。
 工藤に脅されて山本はようやく昨夜紹介した相手のデータをパソコンの画面に表示させたが、電話をかけても使われていない、就業先にもそんな人間はいない、客は偽名で、連絡先もでたらめのようだ。
 もう一人、前に紹介したという相手も就業先も名前も偽名とわかった。
「クソッ!」
 工藤は吐き捨てるように言い、ドアに向かう。
「てめえ、誰だか知らないが、ただで済むと思うなよ!」
 腕ずくで調べさせられた山本は、それでも開き直った。
「ほう? ただじゃなけりゃどうするって?」
 凄みのある声で、振り向いた工藤はほくそ笑む。
 するとまた何か言おうとした山本に野村が駆け寄り、「山本さん、まずいっすよ!」と耳元で何やら囁いた。
 途端、山本は硬直した。
「これ以上広瀬に近づいたら、どうなるか、わかってるな」
 最後に一睨みして工藤は早々に階段を駆け下りた。
 何のことはない、工藤が一度『ルーファス』で中山会組長と口にしただけで、勝手に男たちが恐れ戦いてくれた。
 工藤は鼻で笑いつつ、暴力団対策法が制定された今でも、中山会などはそれだけ影響力があるということを今更ながらに思い知る。
「あとは良太のやつに、何があったのか吐かせるしかないか」
 買春目的で適当に登録しても、どうせ金さえ払えば客の身元など調べもしないのだ。
 できれば客を探し出してそれこそ、さっきの連中ともども渋谷経由で警察に突き出してやりたいところだが、良太のプライバシーもあるし、このあたりでもう一つの事務所に連絡を取る必要があった。
「青山プロダクションの工藤というものですが」
 工藤が鈴木さんから渡された名刺の『サンケイ株式会社』なる事務所に電話を入れ、広瀬の件でというと、女子社員が少々お待ちください、と言って間もなく、社長に取り次いだ。


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