千雪は瘦せ細った身体に包帯を巻かれてベッドに横たわる広瀬を思い出すと、もちろんボコった連中もだが、良太の部屋の前に屯していたという闇金の連中に対しても怒りが沸いてきた。
これは渋谷を引っ張り出して、何とかしてもらうのがいいかも知れないと思ったその時、携帯が鳴った。
「渋谷を引っ張り出してもこの手の連中には埒が明かないかもしれん。勝手に動くなよ」
工藤だった。
まるで千雪が考えたことがわかったかのようなタイミングだ。
「何か策があるんですか?」
「さあな。ただ、俺の伯父は中山会組長だからな」
そう言うと、工藤は電話を切った。
工藤がヤクザを毛嫌いしていることは、これまでの付き合いで千雪も知っているが、それを口にしても事実だから利用しない手はないということか。
その日のうちに事態は急展開した。
工藤は新宿のバー『ルーファス』を探し出して強襲した。
「すみません、まだ開店前で……」
カウンターの中にいた男はいきなり入ってきた工藤に言いかけたが、あまりの恐ろしい形相に言葉を失くした。
「広瀬がバイトしてるのはここだな」
「あ、はい、で、でも夕べも来なかったし、何か、うちのバーテンに魅入りのいい仕事斡旋してもらったとかで」
工藤の目は益々狂気染みてくる。
「そいつをすぐに呼び出せ」
工藤は男の胸倉を掴んで詰め寄った。
「は、はい、ただいま」
男は携帯でバーテンダーを呼び出した。
「すぐに来いと言え」
「でも、なんか用があるとかで」
「ぐちゃぐちゃ言ってないでとっとと来させろ。いいか、俺の伯父貴は中山会組長だ。よく考えろよ」
途端、男は必至な勢いで、携帯に向かってとにかくすぐに来いと喚いた。
「なんすか、一体。今夜は遅出のはず………」
ひょろっとした男は文句を言いながら店に入ってきたが、すぐに工藤に捕まって壁に押し付けられた。
「何しゃがる、てめ!」
「お前が広瀬に、斡旋した実入りのいいバイトってのを俺にも紹介してもらおうか?」
「はあ? オッサンも好きだな。けど、ちゃんと元締めんとこに登録して登録料払わねえと」
ケラケラ笑いながらそんなことを言うバーテンダーを、工藤は締め上げた。
「ほう? その元締めってやつのとこへとっとと連れていけ」
「く………るしい、ちょ…離せ」
するとカウンターの中の男が「おい、さっさとお連れしろ! 中山会だ!」と叫んだ。
バーテンダーは目を丸くしてやがて顔が恐怖に引き攣った。
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