「良太ちゃんの部屋のドアに張り紙なんかしてるので、何をしてらっしゃるのってお聞きしたら、お金を返してもらいにきてるっておっしゃって、夕べも来たけどいなかったって」
「それでどうしました?」
工藤は俄然目を見開いた。
「良太ちゃんは今不在ですから、ご用がおありでしたら会社の方へお願いしますって私の名刺とお一人の名刺を交換したところで、皆さんお帰りになりましたけど」
その内容は千雪にもよくわかったが、ちょっと驚いたのは鈴木さんの淡々とした対応だ。
しかも用があれば会社に来いとは、よく言った、と思う。
ぱっと見どこにでもいる年配のご婦人なのに、工藤の下で働いてるだけあって恐ろしく肝の据わった人だと、改めて鈴木さんを侮れないと思い知る。
「会社を指定していただいて正解です。じゃあ、もし、その相手から連絡が入ったら、私が出向くからとアポを取っておいてください」
鈴木さんから名刺を受け取った工藤はチラリとみてポケットにしまい、淡々と指示をする。
普通なら、おそらく闇金でバックに何とか組がついているかもしれないような輩に会社の名刺を渡すとかあり得ないだろうが、おそらく工藤にとっては広瀬に向かうよりこっちに焦点を当ててくれた方が動きやすいに違いない。
「そういう絡みなら、大いに貸しがある渋谷さんとかを引っ張り出すこともできますけど」
「そうだな。しかし、夕べも部屋に行ったというなら、良太をボコったやつらとはどうも違うようだ」
千雪の提案には頷いたが、工藤は眉を顰めた。
すると鈴木さんが、「実は」と口を開いたので、工藤は鈴木さんを見た。
「良太ちゃんに黙っててほしいって言われてたんですけど、仕事の後、アルバイトをしてるんです」
工藤は一瞬険しい顔をしたが、一呼吸おいて尋ねた。
「それ、どこか、聞いてますか?」
「確か、新宿の『ルーファス』という……」
工藤は腕時計を見てから、「ちょっと出てきます」と言うなり、たったかオフィスを出て行った。
「なんか、工藤さん、ものすごい形相やった」
千雪は思わず振り返って呟いた。
鈴木さんは、また一つ大きく息を吐いた。
「やっぱりもう少し早く工藤さんにお話ししていれば、良太ちゃんもあんな大怪我しなくてすんだかもしれませんわね」
「なんや、その、良太ちゃんやけど、なんぞお金が必要な事情があるんですか? ここ結構ええ給料やて聞きましたけど」
鈴木さんは千雪を見て、しばし迷ったようだったが、意を決したように話し出した。
「良太ちゃんのお父さんがご友人の保証人になってたんですけど、その方が夜逃げなさって、お父さんが経営してらした整備工場も家も取られてしまって、その上莫大な借金まで背負うことになったらしいんです」
「なるほど」
その夜逃げなさったご友人の借金が闇金だったってわけやな。
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