広瀬は千雪に驚いたようで起き上がろうしたが、痛みに顔を顰めてまたベッドにゆっくり戻る。
「ああ、あかん、て。まだ動いたら」
これだけ元気があれば平気か。
「ほな、工藤さん、俺帰るわ」
今度こそ千雪は病室を出た。
「当分おとなしくしてろ! いいか、復帰したら倍は働けよ」
そう言い置くと、工藤も出てきた。
「待て、送って行く」
心なしか工藤の顔がほっとしているように見えた。
「ああ、俺、バイクやから、ええよ、広瀬さんについとったら?」
「俺がついてても怒鳴るくらいだからな」
「さっきはえらい悲愴な顔してはったくせに」
「明日、鈴木さんにまた来てもらう」
工藤は苦笑して言った。
「せえけど、工藤さんの下で動くような輩なんて、てっきりどんな猛者や思うとったけど」
「猛者? ひよっこの間違いだろ」
そう言う工藤の表情が珍しく何やら嬉し気に見えたのは気のせいだろうかと、千雪は思った。
翌日、広瀬のことが気になった千雪は昼過ぎに青山プロダクションを訪れていた。
「あら、いらっしゃいませ。夕べは大変でしたわね」
鈴木さんがいつものように穏やかな口調で千雪を出迎えた。
「広瀬さん、どうでしたか?」
昨日鈴木さんに病院に行ってもらうと工藤が言っていたのを思い出して、千雪は尋ねた。
「ええ、もうすっかり元気なんですけどね、あちこち怪我で、痛々しくて、それに……」
窓際の大テーブルに紅茶とプリンを持ってきてくれた鈴木さんは、少し憂いが買った表情で言葉を切った。
その時ドアが開いて工藤が戻ってきた。
「鈴木さん、病院には行ってくれましたか?」
「お帰りなさい。ええ、猫ちゃんのお世話をして着替えを持って行ってまいりました。良太ちゃん、意気込みだけは元気そうでしたけど、あんな大怪我、可哀そうに」
はあ、と鈴木さんはため息をついた。
「そうですか、ありがとうございます」
そう言うとようやく千雪に気づいたように、「何だ、来てたのか」と言った。
「その映像チェック、せなあかんのでしょう。工藤さんおらんかっても見ときますから」
「そうか、頼む」
工藤はせかせかと自分のデスクに向かい、デスクにセカンドバッグを放り出した。
「工藤さん、やっぱりお話しておいた方がよろしいかと。良太ちゃんのお部屋に参りますとね、何人か男の方がいらしてて、あまりたちのよろしくない方のようで」
それから鈴木さんが話したことは、工藤も預かり知らないことだった。
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