実は良太のことが気になって、今日も番組の確認を理由に千雪はオフィスを訪れたのだ。
良太のことが心配であると同時に、千雪には気を許している鈴木さんは、ついつい今朝工藤がおそらく良太の借金がある事務所に行ったらしいことや大きなケースを手にしていたこと、良太のアパートを引き払って、上に住まわせるらしいことなどぽつりぽつりと話してくれた。
金額のほどまでは聞き出していないが、ケースというからにはおそらく数千万だろうと千雪は推測した。
案外、浪花節オヤジなんやな、工藤さん。
いくら工藤に金があるとはいえ、困っている社員のためにポンッと数千万出してやるとか。
まあ、せっかく入ってくれた社員やし、逃がしたくないってのがあるんやろか。
にしてもなあ。
でもせやな、相手は闇金みたいやし、どっかの組絡みやとメンドイもんな。
そういう輩とは関わりたくないいう理由が大きいかもな。
千雪は勝手に想像した。
「上に部屋があるんですか?」
画面でビデオチェックをするふりをしながら、千雪は尋ねた。
ちょうど千雪が来た時、鈴木さんが業者と上の部屋の掃除のことを説明していた。
「ええ、このビルを建てた時には、七階に工藤さんのプライベートルームと工藤さんが平造さんのためにって部屋を作ったらしいんだけど、平造さん、軽井沢に籠ってしまわれて、使わないっておっしゃって」
なるほど、まあ部屋が空いてるんなら、闇金が押し寄せるような部屋よりずっとええよな。
「ビデオチェックとか、大変ですわね。お紅茶、お代わりどうぞ」
千雪が画面に目をやりながらつらつら考えていると、鈴木さんが労ってくれる。
「おおきに」
どのみちチェックしたところで、念校のようなもので、よほどのことがない限り編集されたデータをいじることなどないと千雪は見越している。
その時ドアが開いて、矍鑠とした老人が入ってきた。
「平造さん、まあ、遠路大変でしたわね」
早速鈴木さんが出迎えた。
「こんにちは。お邪魔してます」
千雪が声をかけると、平造はさほど疲れも見せず「来てなすったのかい」と表情を一瞬緩めた。
「ええ、ビデオチェックに」
「そうですかい」
「平造さん、ちょっとお休みになって、今、お茶をお持ちしますわ」
「いや、上の部屋を見に行きますから、茶はいいです」
平造は鈴木さんに断ると、「アパートの方は?」と聞いた。
「ええ、良太ちゃんに鍵を預かってますから、これから私が出向くことになってますの。業者さんとは午後一時過ぎのお約束ですから」
「上を見たら、わしも一緒に行きます」と言うと、平造はまたせかせかと出て行った。
「あら、もうこんな時間。お弁当、千雪さんの分も頼んでありますからね」
鈴木さんは壁の時計を確認して言った。
あと十分ほどで十二時になるところだ。
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