ゆうされば22

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 千雪の言葉に四人も神妙な面持ちになったようだ。
「春奈ちゃんを奪われた奈美の心の内は計り知れないし、奈美の人生までも奪われたのよね」
「許せないよね! 犯人!」
「まだ捕まってないんだよね!」
「十年前、結局警察がドジ踏んで、犯人逃がしちゃったんでしょ! 何やってるんだろ、警察は!」
 今度は彼女らの怒りが犯人や警察に向いたようだ。
 千雪は彼女らの憤りから少し離れて、また先ほど見ていた男性の絵をあらためて見た。
 同級生はもとより、何の関係もない自分ですら犯人への怒りが湧くのだから、もし仮にこの男性が奈美の恋人で、春奈ちゃんの父親で、別れた後でそれを知ったとしたら?
 さらに自分の娘が誘拐されて殺害されたことを知ったとしたら?
 そしてもし、その犯人が杉浦だと何かの拍子に知ったとしたら?
 捜査を縮小して当てにならない警察の代わりに自ら鉄槌を下したとしても不思議ではないかも知れない。
 さっき彼女らが話していた、当時の彼女らにとっては年上の男性で、学内だが違う学部の助手あたりの誰か、が奈美の恋人で春奈ちゃんの父親である可能性がある。
 その人は今どこにおって、どうしとるんや?
 何とか探し出す手立てはないやろか。
 昔二人を見た言う彼女に、もういっぺん確認せんとな。
 その時ドアが開いて、男が一人入ってきた。
 ここやと他の客もおるし、彼女らをお茶にでも誘ってみよか。
 意識を女性陣に向けると、さっきの神妙な顔はどこへやら、キャラキャラと笑い声に混じって、「女性に見紛うって感じ?」「その辺の女何か裸足で逃げ出したくなるくらいきれいな人よね」などと言う声が聞こえてくる。
 ああ、また俺のことかいな。
 ええ加減にしてほしいわ。
「小林?」
 唐突に振ってきた声に千雪ははたと振り返った。
「山下さん? 何で?」
 どこかで聞いたことのある野太い声の主は、あまり会いたくもないにもかかわらず渋谷と一緒に再会した、高校の剣道部の部長山下だった。
「何でとはこっちのセリフや。こんなとこで何をやっとんのや」
 がっしりとした体躯に羽織ったトレンチコートはえらく大きく見える。
「何って、絵を鑑賞する以外に何がありますん? 山下さんこそ、芸術に興味があるようにはみえませんけど」
 ちくちくと針を刺すかのような千雪の言葉に山下が苛ついているのは一目瞭然だった。
 だが山下が口を開こうとした矢先、またドアが開いた。
「え、千雪くん? まさか山下さんと待ち合わせてたとか?」
 現れたのは同じトレンチコートでもかなりスレンダーに見える渋谷だった。
「あり得ないっしょ」
 スパンと千雪が答えると、なおさら山下の顔が険しくなる。
 渋谷も杉浦の件で誘拐事件を洗い直すために、奈美の実家のあるこの街までやって来たのだろうと思われた。
「いや、すまない、山下さん。実はちょっと想定外の状況になりつつあって」
 ところが、さすがに周りの一般人の手前、山下を手招きして渋谷は何やらコソコソと話している。
 想定外の状況て、杉浦の事件の容疑者のことやろか。
 蚊帳の外に追いやられて面白くない千雪だったが、その時三人の男女がギャラリーに入ってきた。
 上品な雰囲気の老齢の男女と渋谷と同年配くらいのスーツの男性だった。
「伊藤様、いらっしゃいませ。今日もありがとうございます」
 やがて奥の方からギャラリーのスタッフが現れて挨拶をしたが、三人には丁重に対応しているのが見て取れる。
 伊藤? というと、ひょっとして奈美さんの家族?
 千雪は七十代くらいだろう女性から奈美の面影を感じ取った。

 


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