ゆうされば25

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「そう。これで上が杉浦殺害の容疑者として夫人を送検するお膳立てができてしまったというわけだ」
 ふう、とまた渋谷は一つため息をつく。
「でも何でその男がそんなもん持っとったんです?」
 千雪が聞き返すと、「何でってこっちが聞きたいよ」と渋谷は苦笑いして首を振る。
「当然、上は九重との関係を夫人に執拗に聞きただしているらしいが、夫人はそんな男は知らないの一点張りで」
 そこへスタッフがコーヒーと紅茶を持ってきた。
 カップが置かれるまで、三人は口を噤む。
「しかし、ここまでくると、夫人が杉浦殺害に全く関与していないというのは、少し無理がある、思いませんか?」
 スタッフが立ち去ると、それまで難しい顔をして黙り込んでいた山下が頷かざるを得ない疑問を呈した。
「確かに、それは言えてるんだよな。杉浦殺害が十年前の誘拐事件に関係しているのではないかという説であれば、杉浦と知り合いだった松岡夫人はたまたま杉浦殺害直後に居合わせただけで、犯人は誘拐事件の関係者ではないかとフンで動いていたわけだから」
 渋谷はあらためて説明した。
「杉浦が誘拐事件の犯人かそのうちの一人だと知って殺害されたのであれば、容疑者は殺された春奈ちゃんの関係者で、例えば、亡くなった奈美さんの家族で、両親か弟の由人とかですか」
 山下が言った。
「しかし、九重が松岡夫人のバッグと一緒に凶器を持っていたという事実から鑑みると、杉浦殺害は誘拐事件とは全く関係がなく、否認しているとはいえやはり何か別の動機から松岡夫人が犯人であり、九重を殺害した第三者がいるということになりますね」
 山下の意見に千雪は眉を顰めた。
「その場合、二つの事件は全く別のモノいうことになりますけど、俺はさっき渋谷さんが奈美さんの友人らに写真を見せた時に、一人が松岡夫人を見たかもしれない、言うたことがなんや、気になります」
 すると山下はあからさまに表情を険しくした。
「事実は小説と違て、そないうまい具合にものごとが繋がるわけないやろ」
「事実は小説より奇なり、いうこともありますよって」
 さらりと千雪は山下に反論する。
「まあまあ、とにかく捜査本部は九重と松岡夫人の関係を今調べているが、我々としては未解決となっている誘拐事件をこのまま闇に葬ることがないよう、誘拐事件に杉浦が関与したかも知れないという説に沿って新しい証拠を見つけ出すなり、杉浦殺害に何らかの関係があるかも知れない奈美さんの家族をもう少し洗ってみるしかない」
 二人の間の険悪ムードを宥めながら、渋谷はそう結論付けた。
 渋谷と山下は、これから奈美の家族である伊藤家を中心に聞き込みをするということで、店をでると千雪と別れた。
 それにしてもおかしな展開やな。
 九重という男が、なぜ松岡夫人の犯人説を示唆するかのようなものを持っていたのか。
 誰が何の意図をもって夫人を杉浦殺害犯に仕立て上げ、なおかつ九重を殺害したのか。
 問題はそこだろう。
 捜査本部は状況証拠だけで夫人を自白させて幕引きを図るつもりらしいが、この事件はそんな簡単なものではないと千雪は思う。
 何より、千雪が引っ掛かっているのは、やはり奈美の学友らの話だ。
 加藤に奈美の大学時代の友人知人のこと、調べてもらお。
 奈美の絵はとても心に残るものがあり、来た甲斐があったのだが、千雪は、杉浦が殺害された今、作品展が開催されて自分らが彼女の作品を見ることになったのは、人知の及ばない何らかが働いているような気がしてならなかった。
 

 


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