ACT 1
午後から予定していたカップラーメンのCF撮影が、クライアントの会社役員が急に亡くなったために延期になった。
スタジオでその連絡を受け取った藤堂義行は制作会社の担当者やタレントに連絡を入れて、延期になった撮影の打ち合わせのアポをとり、そのまま会社には戻らず、自宅へ足を向けた。
今日は、世の中クリスマスイブである。
ホワイトクリスマスにはならないくせに、街はビル風が舞い、ひどく寒い。
「悠ちゃん、飾りつけはまかせろとかいってたが、大丈夫かな。夢中になるとものも食べないでやるからな、あのコは。何か食べ物を買っていってやらねば」
まあ、せっかく空いた時間、何かしらの理由をつけて悠の顔を見たいだけなのだが。
藤堂は最近一緒に暮らし始めた若い恋人の顔を思い浮かべてニマニマ。
ここのところどうしても顔が崩れがちだ。
クリスマスパーティを藤堂の新居でやることになったので、忙しい藤堂の代わりに彼の同居人兼若い恋人、五十嵐悠がツリーや部屋の飾りつけをかってでた。
実は、母親が熱心なクリスチャンであるせいで、藤堂家にとってクリスマスは厳粛な行事である。
恋人たちのためのイベントでも、飲んで騒ぐ口実のためのイベントでもなく、キリストの誕生を祝い、家族そろってホームパーティをする。
それは今も昔も変わっていない。
もちろん子供たちにとっては、キリストの誕生を祝うよりは、どちらかというとサンタにお願いしていたプレゼントをもらえる待ちに待った日だ。
ツリーを飾り、ケーキや美味しいご馳走を食べ、わくわくしながら枕もとに靴下を置いて眠る。
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