「なーに、ちょっとしたものでいいんですよ、今持ってるペンとかでも」
「ペン……やと、あまりにヒンソやし」
「ほんとに行く気ですか?」
良太が心配そうにたずねる。
「ええやん。良太も行くんやろ?」
「行きますけど…」
「じゃあ、寒空に立ち話もなんですから、車へどうぞ、お二人とも」
藤堂が二人を促して、後部座席のドアを開ける。
小林が先に、続いて良太が乗り込むと、藤堂はすぐにハンドルを切る。
「ところで、鴻池さんが次の映画になんて言っていたので、俳優さんかモデルさんかと思っていたんですが、小林さん、じゃあこれから青山プロダクションに入られるとか?」
「だから、そういうんじゃないんですってば」
藤堂が小林に訊ねると、良太が口を挟む。
「じゃあ、どういうのなの? 良太ちゃん」
「だから、うちの社長の知り合いなんですって」
「工藤さんの?」
「ええ、工藤さんには昔から仕事のことで世話になっていて」
小林が答える。
「仕事、というと?」
「物書きなんです」
「あ、なるほど。だから鴻池さんとも親しいとか?」
「鴻池さんはたまたま大学のOBってだけですよ」
「というと、T大ですか? だから、良太ちゃんも知ってるわけだ」
「ええまあ」
小林の答えは曖昧だ。
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