サンタもたまには恋をする 1

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「今夜は月が明るいなぁ」
 藤堂義行はふと足を止め、秋の夜空を見上げて呟いた。
 輝く月の明るさとは裏腹に、サイモンベーカーとアレックスオローリンをたして二で割ったような甘いマスクは曇りがちだ。
 藤堂の左手には真っ赤なバラの花束、右手には巷で評判のシュークリームの箱が、パティシェリーのきれいな袋の中で揺れている。
「あーあ、マミちゃん……」
 マミの大好きなシュークリームもクイーンレッドのバラも、今となってはそれらはもう何の用もなさないのだ。
『新しい彼氏見つけちゃったから、バイバーイ!』
 やっとつながった携帯の向こうから、マミのかわいい声がそう言った。
 思い出したように時計を見ると午後十時を過ぎようとしている。
 どうやら二時間ばかりただぼんやりうろついていたらしい。
 青山通りをひとりテクテクと歩きつつ藤堂はまたふーっと一つ大きく息をつ。
「それにしてもこんなにたくさんのシュークリーム、どうしようか」
 大きなシュークリームが六個。
 藤堂も嫌いではないが、いくらなんでも六個も食べられないし、注意書きにもしっかり『今日中にお召し上がり下さい』とある。
「オフィスにはもう誰もいないだろうしな」
 これからオフィスに戻るのもさすがに億劫だ。
「仕方ない、帰ってアイちゃんと二人で食べるか」
 七ヵ月になるアイちゃんは実家で生まれたボーダーコリーのミックスで、今は彼の唯一の家族だ。
 一緒に暮らし始めて五ヵ月が経つ。
 スリッパから靴からボロボロにしてくれたり、スーツの上着をビリビリひっちゃぶいてくれたりするやんちゃざかりの男の子で、かわいいやつである。
 ただし甘い物は好きでも、ワンコにたくさんはあげてはいけないのだが。

 


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