空はやっぱ青い13

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 実をいえば今日の撮影ではスタジオに現れてすぐから機嫌の悪さを隠しもしなかった工藤に対して、「何か今日の工藤さん、いつも以上にこわ!」とか「確かにミスったのはまずいけどあそこまでいわなくても」などとスタッフや俳優陣の間でもコソコソ言われていたのが、工藤の耳にも入っていた。
 これが理不尽な雷であればまた別の話だが的を得た叱責で、ただ、その怒号の度合いが問題なのだ。
 そんな時の工藤には、山根監督をはじめとして、触らぬ神に何とやらで口を閉ざしていたが、いい加減工藤の機嫌の悪さを放っておけなくなって、ひとみが真っ向から工藤に物申した、というわけだ。
 自分の怒りを抑えきれないことに対してすらも苛ついていた工藤ももろ苦虫を嚙み潰した顔でひとみをジロリと睨みつけただけだった。
 工藤に睨まれたら、大抵思わず後ずさりしてしまいそうなところ、逆に睨み返すのはひとみと良太くらいなものだが。 
「じゃあ、ちょっと休憩にしましょう。一息ついて、気分をかえましょう」
 ひとみの発言にほっとした山根が怒号をもろにぶつけられた白河を気遣うように言った。
「白河さん、工藤さんの雷なんて日常茶飯事なんだから気にしないでよね」
 ひとみもさらっと慰めの言葉をかけた。
「うーん、情けないわ」
 ところが白河はそんなことを口にした。
 それなりに経験を積んできたと自負している白河も言われっぱなしで引き下がるようなことは本意ではないと思われるのだが。
「ちょっと茶道くらいとか、甘く見てたのよね」
「だって、茶道前にやってたんでしょ?」
「それが甘かったのよ。どうも昔ついてた先生、私が女優ってこともあって全然厳しくなかったのよね」
「ああ、佐々木先生、ものすごく厳しそうだわね」
 ひとみは森村にお茶をもらっている茶道師範の佐々木淑子に目をやった。
 今頃はニューヨークの空気を吸っているはずの伝説のクリエイター、佐々木周平の母親でもある。
 七十を超えているという淑子だが、淡い藤色の単衣に生成り地に菖蒲をあしらった袋帯をビシッと着こなし、白髪交じりの髪を品よく結い上げているその佇まいはその辺の女優も裸足で逃げ出すほど優雅で美しく、撮影中も背筋を伸ばしてじっとシーンに目を向けていた。
 最初良太が茶道の監修をオファーした時は断られたものの、工藤に何とかしろと言われた良太から千雪を通して、門下でもある綾小路紫紀の妻小夜子から再度淑子にお伺いを立てたところ、何とか了承を得て、自宅の茶室の利用を快諾しただけでなくこうしてスタジオに設置された茶室も淑子の監修の元に撮影されているというわけだ。
 淑子の監修というより厳しい指導には大森美術の和穂も音を上げそうになったことが一度や二度ではない。
 別のドラマで使う窓のことで良太が連絡を受けた時も、実際淑子の厳しすぎる指導のグチを聞かされていた。
 しかし、どれだけかやり直しを繰り返したのちにGOサインが出た時は和穂も落涙ものだった、と良太にラインしている。
「良太ちゃんいてくれたらね」
「良太ちゃんなら」
 そんな声も工藤は何度も耳にしていた。

 


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