「ここってニューヨークだよな?」
しばらくして、ビデオチャットで連絡してきた和穂と、良太と森村も混じってああだこうだと意見を言い合いながら、ようやくこれという窓に落ち着くと、良太は思わず呟いた。
「やっぱ、良太さん、要なんだ」
森村は納得したというように頷いた。
良太が研修に行っている間、森村も乃木坂のオフィスにいる鈴木さんからの指示でリモートで仕事をしていた。
「ITの進化って、やっぱすごいですねえ。東京にいなくても鈴木さんの仕事ができるんですから」
改めて感慨深げに言う森村に、良太も笑った。
佐々木と直子が遊びに来てくれた夜は、佐々木が腕を振るって森村も手伝い、ペペロンチーノや魚介類とトマトでアクアパッツァを作ってくれた。
良太と直子は皿やグラス、カトラリーをダイニングテーブルに用意しながらこちらに来てからの情報交換で話が尽きない。
「沢村っち、コロラドにいるんだけど、明日ゲームが終わったら速攻こっちに来るって」
「それ、『パワスポ』で俺が沢村をリポートするんだよ。え? Fパーク行くつもりだったけど、あいつこっち来るのか? どこでリポートすんだよ」
聞いてないぞ、と良太は怪訝な顔をする。
「沢村っちのアパートでやったらいいじゃん」
直子が軽く提案した。
「良太ちゃん、動かなくてもいいし」
「え、まあ、そうかもだけど」
週末にボストンの球場でインタビューのつもりだったのだが、それならそれでまた、内容をまとめ直さなくては。
頭の中でいろいろと考え込んでいたその時、リビングのテーブルの上で携帯がワルキューレを奏でた。
「え、あ」
良太は手に持っていたナプキンを置くと、携帯を持って足早にリビングに向かう。
工藤には着いた日に連絡を入れたが、そうか、気をつけろよ、だけで切られた。
土曜日にもう一度連絡を入れると、撮影中で、じゃまた連絡します、で終わった。
「はい、お疲れ様です!」
「どうだ、そっちは」
ようやく、落ち着いた工藤の声が帰ってきた。
「あ、ええ、まあ、順調です。研修はみっちりですけど、面白いし。今、佐々木さんと直ちゃんが来てて、佐々木さんがパスタとか作ってくれて」
「佐々木さんはそっちに慣れたようすか?」
やっぱり工藤は佐々木には優しい気がする。
「ええ、ビルのオーナーのウイルソンがいろいろよくしてくれるみたいです」
「そうか。平野が離脱したんだってな。今後、トラブルは俺に回せ」
「はあ、でも、平野さんのマネージャーがこっちに連絡してきて」
「お前はとにかく研修と自分の仕事をしろ。わかったな!?」
で、切れた。
これだからあのオヤジは!
少しむっとした良太だが、何だかいつもの工藤の怒鳴り声が嬉しくもある。
俺ってやっぱマゾ?
自分に突っ込みながら、良太は笑う。
「良太ちゃん、食べよ?」
直子が呼んだ。
「うまそー! いただきます!」
テーブルに並ぶ湯気の立つ料理に、良太は工藤への文句もふっとんだ。
「良太ちゃん、さっきの顔とはえらい変わりようやな」
佐々木が良太を見て笑う。
ニューヨークであろうがどこであろうが、美味しいものの前にはひと時の幸せだけだ。
親しい仲間との夕餉とおしゃべりで、ニューヨークの夜は更けていった。
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