「だってニューヨークで撮影だったんでしょ?」
今や工藤を通して飲み仲間となっている久保田が言った。
「まあなあ。たまには、他所の風にもふかれねえとな」
下柳は次には手酌で酒を御猪口に注ぐ。
「ニューヨークと言えば良太P、向こうで大活躍みたいですね」
山根が言うと、良太というキーワードに工藤の耳が勝手に反応する。
「いやあ、研修も意気揚々、おまけに沢村とセットでオンエアで、日本のユーザーに大反響。たいしたもんよ」
褒めちぎる下柳に、「や、もともと良太P、CMやドラマ、出てたんですよね?」と久保田が工藤に振った。
「あんなのは、ただの代打だ」
つい、工藤の口からはそんなボヤキが出てしまう。
工藤としては実はあまり歓迎しない状況に良太はなりつつあった。
良太といえばたまに突っかかっては来るがやることはやる、あくまでも自分の部下で、会社に戻ればそこにいる、そんな存在だった。
それがいつの間にか会社の要になり、今回の研修でプロデューサーとしても成長するだろう、くらいは当然考えてはいた。
さらに東洋商事のCMプロジェクトのリーダーを任された。
これは良太にとって大きなステップアップになるだろうと。
パワスポのレポートを見た時、これは反響が大きいだろうと即座に直感し、何やら嫌な予感もしたものの、よもやそのCMに良太自身が起用されることになろうとは、思いもよらなかった。
CMを見た宮下がまず、工藤に電話をよこした。
宮下が直接かけてきたことに訝しんだが、案の定、良太がCMに出演するのは可能か、という打診だった。
宮下の中ではもう、打診を超えてもうほぼ決定事項だったに違いない。
工藤としても、頑なに絶対だめだ、という理由が見つからなかった。
パワスポのレポートはSNSでもあっという間に広まったように、沢村も良太も段々素が出て相乗効果で好印象をアップさせていた。
工藤もそれは否定できなかった。
「プロジェクトリーダーの広瀬をですか?」
工藤は一応悪あがきはしたのだ。
「もちろん、それは変わりません。ただ、彼が出演するという役割が増えるだけです」
いとも簡単に宮下は言った。
「広瀬は今、重要な研修の最中でもあります。広瀬に負担がかかり過ぎるのは困りますが」
「それはもちろん、広瀬さんにご迷惑がかからないようサポート体制を充実させます」
あとは本人に確認してくれと、工藤はそう言うしかなかった。
さらに蓋を開けてみれば、案件は何と紫紀のプランとなっていた。
藤堂の話を聞くまでもなく、紫紀はもう決まったかのような状況だったようだ。
「いつもにも増して苦い顔、せっかくの飲み会なのにやめてよね」
顔を上げると、向こうのテーブルから移動してきたひとみの顔に、工藤はさらに眉を顰めた。
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