「いや、お茶やってる、くらいは嗜みいうことで、ええ思いますけど、はっきり言うて、あいつ、お茶飲んだり、はでけても、ちっとも道具とか覚えてえへんし」
良太も藤堂も笑った。
「そこんとこ、いいんじゃないか? もし使うとしたら」
「そうですね、さらっと。俺も仕事上の付き合いで茶席に入って足がしびれたとか、くらいは付け足せますし」
打ち合わせは穏やかに終わったが、問題は東洋商事でのミーティングだ。
「ま、これ以上あれこれ考えてもしょうがないし、当たって砕けろって感じですね」
良太がそう言うと、藤堂や佐々木も頷いた。
藤堂が画面から消えると、打ち合わせを静かに見守っていた直子から、「お疲れ様! お茶にしよ?」と声がかかった。
時刻は夜の九時になろうとしていた。
「今夜はチーズケーキ。日本人パティシエの店だから、甘さ控えめだよ」
アメリカのお菓子の甘さに閉口している良太には、ありがたいチョイスだ。
「ベルガモットの香りがちょうどええなあ」
お茶を一口飲んで、佐々木が言った。
「東洋商事も藤堂さん、会議、リモートで?」
直子が聞いた。
「今面倒な仕事抱えてるみたいで、ちょっとこっちには来られないみたい」
ほおばっていたチーズケーキを飲み込んで、良太が答えた。
「藤堂さんって、ほんとは忙しいのよね、いっつも暇そうな顔してるけど」
「そうそう。飄々としてるし、忙しそうにみえないんだよね」
直子に同意して良太は頷いた。
「余裕って顔して、ほんまは焦ってたりするんやから、おかしな人や」
佐々木は笑う。
和やかにお茶をいただくと、三人はオフィスを閉めて廊下に出た。
「じゃあ、明後日、四時、東洋商事で、よろしくお願いします」
エレベーターが開くと、良太はそう言って乗り込んだ。
「気をつけてね」
佐々木が言うと、エレベーターのドアが閉まる。
これはこのオフィス専用のエレベーターで、この階から上の佐々木や直子の階へ向かうエレベーターがその横にあった。
カードがなければ動かないし、セキュリティは万全だ。
「ニックって、私ちょっと顔を見たことがあるくらい。今日も下で良太ちゃん待ってるんだよね?」
エレベーターのドアが閉まると、直子がぼそりと言った。
「俺、まだまともに顔みたことあれへん。ほら、工藤さんっていろいろあるよってなあ」
「良太ちゃん、地下鉄に乗る時も、ニックがきっちり近くにいるって言ってた。やり過ぎってことはない、何事もなければそれでよし、って感じかなあ?」
「そやね」
直子の部屋の階でエレベーターが停まると、佐々木は直子が部屋に入るのを見届けてから、ドアを閉めた。
このビルはエントランスにガード兼コンシェルジュがいるし、住人への宅配などもここで受け取ってくれる。
ウイルソンは警備関係には厳しい対応で臨んでおり、コンシェルジュの人選も吟味した元軍人である。
佐々木にしてみれば、ニューヨークに一緒に来てもらった直子を安全に守ることが最重要課題だと思っているので、それは有難い。
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