親御さんにしてみればほんまに心配やろしなあ。
こっちに来る前に、直子の家に出向いて、両親にきちんと挨拶をしてきたのだが、祖母に厳しく躾けられたと直子は言っていたように、両親は大らかで楽し気な人たちで、不束者ですがこちらこそよろしくお願いします、と頭を下げられた。
「お母さんたち、まるで私を嫁に出すみたいなこと言ってるし」
直子は後でぼやいていたが。
だが、ニューヨークに来てから、美術館や博物館はもとより、ミュージカルや舞台など佐々木と直子の二人で出かけることが多く、傍から見れば仲の良いカップルだ。
ウイルソンも沢村に色々と言われているらしく、佐々木にも出かける時は必ずひとこと告げてくれ、と気遣ってくれる。
ニューヨーク在住の業界人と会うこともあり、パーティに招かれたりもする。
そんな時も、ウイルソンが同行してくれて、評判の良くない招待客を見つけるとあまり近づくなと佐々木に警告してくれる。
「素行が悪いくらいならまだしも、クスリと女を仲間内でやり取りしているなんてのもいるからね」
ニックが良太に対して過保護過ぎるというのが、そうでもないぞ、と思わせる事件があったのは翌日だ。
「さすがにビビった!」
良太は出社するなりジミーを捕まえて言った。
「地下鉄で大捕り物があってさ」
「今朝の殺傷事件? 近くにいたのか?」
ジミーは気色ばんで聞き返した。
「隣の車両だったんだけど、刺されたのが元妻で、すっげえ血の海で。刺したやつでっけー男でタトゥーだらけの腕が俺の倍ほどもあるやつで、ナイフ振り回してて、警察に捕まって連行されたけど」
髭面の白人だったが、目が血走っていた、と良太は思い出した。
「絶対そう言うの見ても近づかない方がいい。巻き込まれたりすることもあるから」
ジミーは真剣な顔で言う。
「いや、大げさじゃなくて、俺のダチ、ロスで、たまたま出くわした殺人現場で、携帯で撮ってたら、いきなり犯人に襲い掛かられて、三か月の重傷」
それを聞くと良太はぞっとした。
「ドラマの中の話だけじゃないんだ」
「リアル殺人事件だったよ」
ふうっとジミーは息をつく。
「今朝、刺された女性、助かったんだよな?」
良太は改めて救急隊員に運ばれていった女性のことを思い出した。
「うん、命はとりとめたってニュースで言ってた」
「よかった」
しかし、良太は今更ながらにおぞましいシーンを思い出し、ぞっとした。
「そういえば俺も……」
すっかり忘れていたが、工藤の代わりに呼び出した犯人に刺されたことがあったのだ。
その話をすると、ジミーが、「うっそー、自分から被害に遭いに行くとか、あり得ない」と首を横に振った。
「いや、いくら何でもそんな経験はもうごめんだから、君子危うきに近寄らず、だよ」
と口にしながら、俺って、かなりいろいろな目に遭ってるよな。
三人の男にぼこぼこにされて、やっとの思いで逃げ出したこともあったし、沢村に襲い掛かったやつの前に飛び出して殴られたことも、あの鴻池には拉致られてえらい目にあったっけ。
嫌なことまで思い出した良太は、俺ってやっぱ、事件を呼んじゃう人? とかって。
今朝は知らないうちにニックがすぐ後ろにいた。
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