幻月29

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「いや、皆の一体感が出てくる時ってその場のまとめ役みたいなのが大概いるもんなんだ。それって良太ちゃんだってこと」
「俺は演者じゃないですよ」
「でも演者みんなが良太ちゃんと話してるうちに何かワールドの入り口を見つけたみたいだよ」
「まとめるとか、俺なんか何もしてないですし」
「いや、マジ、まとめ役っつうか、良太ちゃんと話したから、動けた、みたいなところはあるんだと思うよ、うん」
 自分にはそんな力はないが、坂口が言っているうちのいくばくかを担えてるんだとしたら、それは嬉しいことかもしれない。
 もう行っちゃうの、今度飲み行こうよ、という坂口の名残惜し気なセリフを後にして、良太は二時過ぎにスタジオを出ると、三時まで二十分ほどもある時間にMEC電機本社の駐車場にいた。
「しっかりしろよ、俺」
 三時まで十分となったところで、良太はもう一度声に出して言うと、車を降りて一階の受付へと向かった。
「青山プロダクションの広瀬様ですね。少々お待ちください」
 受付嬢が広報部を呼び出している。
「お待たせいたしました。どうぞこちらへ」
 カード型の入館証を渡され、受付嬢が先に立って良太を広報部のある階用のエレベーターホールへと案内してくれた。
 広報部は二十階にあるようだ。
 階が上がるにつれて、ざわめいてきた心臓を良太は何とか沈める。
 二十階でドアが開くと、そこにも入館用の受付システムがあり、良太がカードを画面にかざすとゲートが開いた。
 と、そこにはいつのまにかあの男が立っていた。
「お待ちしておりました」
 乱れのない身なり、エリート然とした佇まい、銀縁の眼鏡、通った鼻筋、顔だちは整ってはいるが、むしろ特徴がないのは敢えて表情を外に出さず、猫のように気配を消しているからなのかもしれない。
 良太は波多野の後について歩いたが、波多野は良太よりは背が高いから百八十五センチくらいだろうか、中肉中背に見えるが、肩から腕のあたりがおそらく平均的な日本人男性よりはがっちりしている。
 おそらくスーツはオーダーメイドじゃないと、これだけ身体にフィットしないだろうと思われた。

 


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