アスカがオフィスでぶっちゃけるのとはわけが違うだろう。
「あ、美亜はそんなこと人に触れ回ったりするような子じゃあないから、大丈夫」
良太は、思い切り大きく息をつく。
「何が大丈夫だよ。頼むよ。変な噂広まったら、工藤の仕事にも影響するだろ」
いくらLGBTQとかに対しての差別をなくそう的な風潮があるからといって、裏ではどこかの政党が票をまとめるために関わった変な宗教に圧されて平気で差別的に批判をするようなこの日本で、しかも業界の人間なんかそんなことが噂になったら格好の面白ネタってことでつつかれること請け合いだ。
さらにただでさえその出自が面倒な工藤が、しかもしかも過去に女優やらたまごやらといろいろ取り沙汰された工藤のことなら、こぞって騒ぐに違いない。
せっかく心血注いできた映画にもケチをつけることになりかねない。
良太は頭の中でいろんなリスクを並べ立てた。
「そりゃちっとおかしくね?」
良太の逡巡を断ち切って小笠原は逆に反論する。
「変な噂って何だよ? 工藤の仕事って、お前はどうでもいいみたいな言い方すんなよ」
「あのさ、今の重要案件て『大いなる旅人』の映画なんだよ。社運がかかってるっても過言じゃない。大々的に宣伝も打ってるし、俺はその仕事に対するリスクをちょっとでも減らしたいんだよ」
ちょっと大げさに、良太は力説する。
「そんな時に工藤のことを面白おかしく取り上げられたら冗談じゃないって」
小笠原は良太に気おされてちょっと引き気味になり、「わかった、わかったよ」と何度も頷いた。
「気を付けるって。あ、でも美亜はちゃんとそういうとこわかってるからさ。兄貴の礼央と野口が昔、それで大事件になったみたいだし」
「は? 閉じとかなくちゃいけないのはお前の口だ! って、それで大事件って何だよ?」
一端は小笠原にイエローカードを呈しつつも、良太は気になった。
「だから高校生ん時、あの二人付き合ってるのがばれて、政治家の祖父に別れなければ即刻勘当だとか言われて、礼央はそれに対してキレて自分からうちを出たって。でも野口が仕方なく別れることを承知したもんだから、礼央はさらに怒りまくって、外で暴れまくって、逆に祖父の名を汚しまくったって話。祖父は礼央の不詳事に蓋をしようにも礼央が自分でネットで拡散させたもんだから、ついに祖父は寝込んだと」
「やりたい放題じゃん、海老原。いくら何でも」
ってか、何? 海老原と野口ってそういう関係?
いや高校時代か。
「だからさ、海老原、モデルでちょっと売れたけど、結局業界から足を洗ったってのの裏には、そういう不祥事の過去もあったんじゃね?」
「だったら納得」
工藤が海老原に最後通牒渡したみたいなのって、やっぱワケがあったってことじゃん。
良太は一人頷いた。
「ああ、でも、わかる気がする。あの会社のフラットな雰囲気」
最初にランドエージェントを訪れた日のことを良太は思い出した。
英語ではあったが、確かにあの女性は、ジェフを野口のハニー、と言ったのだ。
「ナニソレ?」
小笠原は首を傾げる。
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