春立つ風に153

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 間もなく鰻の出前が届き、千雪が鰻を食べている横で、みんながコーヒーを飲んでまったりとしていた。
 鈴木さんはデスクに戻り、良太はやりかけのデータ作成に取り掛かった。
 良太が一心不乱にキーボードを叩いているうちに、アスカと千雪はスキー合宿の話で盛り上がっていた。
「あたしはその週なら大丈夫。スキー合宿ありきでスケジュール組んでもらってるし」
「一年前からね」
 秋山が口を挟む。
「今年は今月末の二十九日の金曜日から十三日の日曜まで、割と長い期間予定してるんで、その間ならいつでもええで」
 千雪が携帯を見ながら言った。
「約一名、二月に入ると動きが取れなくなるからって、要望があったんや。良太経由で」
 千雪が説明すると秋山が笑う。
「なるほど、沢村くん、二月には春季キャンプに入るからな」
「でもCMそれまでに何とかなるの?」
 アスカが良太に聞いた。
「まあ、沢村の撮影さえ終われば。あとは藤堂さんや佐々木さんのスケジュール次第です」
 もうスキー合宿間近か。
 また沢村が去年のようにトラベルサスペンスよろしくダイヤを駆使して無茶をしないように、という良太の親心だ。
 だいたい、タイガースの四番がコンコースを走りまくるって何ごとだよってやつだ。
 ただし、佐々木が月末の二十九日から三十一日まで身体があけばの話だが。
「ああ、そうだ、千雪さんの電話でスキー合宿の話してた時、うっかり宇都宮さんに聞かれちゃって、宇都宮、小笠原、参加希望です」
 良太が報告すると、「別にええやろ。部屋はありそうやし」と千雪は軽く同意した。
 午後三時を過ぎると、アスカや秋山、それに千雪もオフィスを後にしたので、賑やかだった空間がしんと静まり返る。
 良太は溜まっていたデスクワークに勤しみ、鈴木さんもExcelのデータ作成に没頭してあっという間に夕方になった。
 鈴木さんが帰ると良太は自分の部屋に上がって猫のトイレを掃除し、ご飯を器に盛ると、スーツを着替えた。
「ったく何だってまた、海老原とかとご飯なんだ」
 この期に及んでブツブツ言いつつも、身だしなみを整えてオフィスに戻る。
「おう、来たぜ」
 既に小笠原がオフィスにいた。
 珍しくシックなブルーグレイのスーツで決めている。
 その小笠原がもじもじと、何やら逡巡しているような顔をしている。
 何か言いたげに良太をチラ見する。
「何だよ、何か言いにくいこと、やらかしたのか?」
 良太は眉を顰めて小笠原に厳しい視線を送る。
「いやあ、それがさ、こないだ、美亜が、海老原は相手を酔わせて自分の部屋に連れ込むとかって言うから、俺ら海老原のベントレー追っかけたって言っただろ?」
「それがなんだ?」
「夕べ、また海老原のことを話してて、美亜が海老原は良太を狙ってるかも知れないとかいうから、俺、つい、ってかうっかり、ってか………」
 よほど言いにくそうに小笠原は言葉を濁す。
「何だよ?!」
 良太はイラついて声を上げた。
「だから、良太は工藤と………とかって、言っちまって………」
「はああああ?」
 呆れまくって良太は小笠原を見た。

 


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