春立つ風に152

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 こないだも襲われたもんな。
 大石の手下とかが、自棄になって、工藤や千雪さんとか襲ったりしたら……
 携帯を呼び出しても電源が切れている。
 ラインにメッセージを残そうとしたその時、ドアが開いた。
「ああ、珍しい、ユキ、どうしたの?」
 入ってきた人物に気づいて、早速アスカが立ち上がった。
 デスクで携帯をいじっていた良太も「帰ってたんですか」と千雪を見てほっと胸をなでおろす。
「まいど~、美味そうな匂いしてるやん」
 千雪はソファまで行ってアスカの隣に腰を下ろした。
「どこか行ってたの?」
「京都。ほんの二、三日で戻るつもりが、今までや」
 はあ、と千雪は思い切り溜息をつく。
「お疲れみたいね?」
「うーん、腹減ってるだけや~」
 すると食事を終えた鈴木さんが、「あらあら、じゃあ、鰻、取りましょうね」と立ち上がった。
「すんません、でも昼からえろ、豪勢やん」
「一仕事終わったご褒美よ」
 アスカが当然のように言った。
「京都、撮影どうでした?」
 食べ終えた秋山がお茶を飲んでから千雪に尋ねた。
「全力でラストスパートやったで? 匠の所作なんか鬼気迫るいう感じやったし。生で見ててもあれは見ごたえがあるわ。映像になったらもっと迫力やろか」
「映画楽しみ~」
 そう言いながらアスカが最後の一口を頬張った。
「皆さん、お茶にします? コーヒーにします?」
 千雪のために追加の出前を頼んだ鈴木さんがキッチンに移動しながら声を掛けた。
「コーヒーお願い」
 アスカが代表して言うと、他のメンツも異存はなかった。
「千雪さん、携帯電源入れといてくださいよ」
 ついでにネットで事件の記事を検索していた良太が言った。
「工藤が、千雪さんが電源切ってるってこっちに文句言ってくるし」
「工藤さん、どうせ俺にも文句やろ? 切ってて正解やん」
 それを聞いた良太は、はあ、と一つ溜息をついてから、千雪を手招きした。
「なんやね?」
「撮影以外はどうでした? 猫の手さんらとか」
 声を落として良太は聞いた。
「残してきたで。工藤さんおるうちは、下っ端のアホどもがまた殴り込みしてこんとも限らんからな。モリー一人では心もとないんちゃう?」
「ありがとうございます。でも千雪さん、自分の仕事やってくださいよ」
「せやから戻ってきたんやないか。教授の呼び出しで、学会のお供や。淳史らと張り込みしとった方がおもろいのにな~」
 千雪は良太のデスクに凭れてお気楽なことを言う。
「背後霊、ほっといていいんですか?」
「やたら事件や事故が続きよって、モルグに籠っとるみたいやで」
 まあ、良太としても煩い背後霊が出てこない方がちょっと有難い。
「ほんで?」
 千雪が良太を改めて見やる。
「弁護士、どないなったて?」
 ああ、と良太は、ロスでヤバい連中に掴まったと工藤から聞いたことを話した。
「モリーの上司関連らしいです」
「ふーん。まあ、こっちとしては生きててもらうと困るもんな。しかし、大石や篠原にしっかり報復して行きよったわけや」
 千雪は冷たく言い放つ。

 


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