春立つ風に151

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 これ以上良太や千雪に中山組関連のことでウロウロさせたくはない。
「とりあえず、警察の方は篠原と大石を起訴して、このまま殺人と殺人教唆で押し通すつもりでしょう。会社に潜り込ませている手の者もあまり派手には動けませんでしたが、どうやら起訴するにたる物証があるようです。一つは篠原と大石のやり取りが入った音声データが外から送り付けられたらしいと。所謂内部告発的なものかと思われます」
「内部告発?」
「データからは大石が単独で動いていたことが判明し、組は無関係と断定されたようです」
「えらく都合のいい話だな」
「おそらく柏木弁護士が大石に仕掛けた最後の罠でしょう。篠原と大石は互いになすり合いをしていると聞きますが、篠原の指紋が炎上した車の近くにある別荘に残されていたことで、大石が殺害を教唆、篠原が実行犯というところに落ち着くかと思われます。いずれにせよ、あなたに火の粉が飛ばなければよしです」
 軽い口調で波多野は言った。
「フン、やつら、飼い犬に手を噛まれたことを知らないということか」
「その通り。実際に殺害された女性には申し訳ないのですが、柏木がロスの闇の組織に落ちたことで今さらどこの誰ともわからない。こちらとしては柏木が生きていることを知られては都合が悪いですしね」
 冷徹な波多野の話は工藤にも気持ちのいいものではない。
「実行犯は柏木です。おそらく手に掛けたのは今回の二人だけではないでしょうから、柏木に温情はいりませんよ。生きているうちに這い上がって来られるかどうかは柏木の運次第ってところでしょうか」
 柏木に同情するようなことはない。
 ちゆきが諫死しても尚、代議士が身を染めた悪を払拭しようとしなかった事実をして、工藤だけでなく小田も荒木も現実を突き付けられた。
 以来、不条理を不条理と認識するしかなかった。
「まだ、気を緩めないでください。森村にも言ってありますが、大石の手のものが自棄になってあなたに襲いかかる可能性もないとは言えない」
 千雪は東京に戻ったのかどうか、まだ加藤らはうろついている。
 いくら屈強な連中でも、万が一ということがある。
 千雪に電話を入れても電源を切っている。
 工藤は再び良太を呼び出した。
「千雪は東京に戻ったのか?」
「え、いや、ちょっとわかりませんけど」
「あのやろ電源切ってやがる。あいつに連絡してとっとと東京に戻るように言っておけ」
「え、でも……」
 と良太が当惑しているうちに、工藤は電話を切ってしまった。
「ってかなんだよ!」
 良太は眉を顰めて文句を言った。
 千雪さん、電源切ってるのなんてしょっちゅうだし。
 でも、危ないことになってないよな?
 良太は俄かに心配になってきた。

 


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