月鏡2

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 ったく、ちょっとくらい減らしたって、また元の木阿弥じゃないかよ。
 少しは年も考えろよな。
 とは、良太の心の声なのだが。
 工藤が休みをまともに取ったのは八月にタレントが風邪を理由にスケジュールに穴を開けた二日ほどと、今となってはまとまった休暇と言えるだろう、九月に冤罪事件に巻き込まれ、無能な警察に捕まったために、強制的に仕事を休むことになった数日くらいだ。
 これまで何かというと、寝込んだり入院していたのは良太の方で、工藤は寝込むどころかそれこそ風邪なんか気合で直しても動いている。
 良太としても少しでも工藤の仕事を減らすべく、できることは率先してやるし、工藤に無理難題言われようが、丸投げされようが、誰もいないところで文句をぶちまけるくらいで、ハイハイと滞りなくやっている。
 だがここのところの無駄な忙しさは、ついこの間、覚せい剤所持で逮捕され、業界のみならず世間を騒がせた水波清太郎関連の仕事が元凶だ。
 何せ、水波清太郎主演で既に撮了しているにもかかわらず、スポンサー関連の記念番組のドラマは急遽撮り直しとなり、今後の方針を決める会議ではテレビ局、スポンサー、制作会社、その他関連業者などの利害関係がもつれる中、ドラマに、青山プロダクション所属女優中川アスカが出演しているために良太が会議に出席せざるを得なかった。
 代役を決めてほぼ三分の二を取り直すことになったものの、今度はクリーンで、実力があり、人気もそこそこの中堅どころの俳優ということで、肝心の代役を誰にするかで大揉めとなったが、ようやく多忙ながらオファーに応じてくれた大澤流が代役となった。
 スポンサー関連のドラマのためCMも撮り直しが決まり、こちらにも主演である大澤がアスカとともに代役として出演することとなり、関係者がこぞって迷惑を被ったわけだ。
 制作を進めている広告代理店サンホールディングスとの会議もあったのだが、ちょうどCMを制作したクリエイターの佐々木が別件でニューヨークにいたため、このあと会議に出席した良太と打ち合わせに寄ることになっていた。
 業界では天才クリエイターとして名の知れた佐々木周平は、近年、古巣である弱小広告代理店ジャストエージェンシーから独立し、オフィスササキを立ち上げた。
 オフィスササキの唯一のスタッフ、池山直子とも良太は懇意だが、直子から、佐々木も本当にここのところ疲労困憊状態だという話を聞いていた。
 ジャストエージェンシー時代は、佐々木は社長の庇護のもと、ゆったりと仕事を選んでやっていたのだが、独立して以来、佐々木にとっては以前の倍以上の仕事のオファーに対応しなくてはならなくなったという。
 その上水波の一件で、撮り直し案件が他にもあるらしく、直子も佐々木の体調を心配していた。
「お互い、仕事にのめり込む上司を持つと苦労するよね」
 佐々木が立ち寄るからと連絡を入れてきた直子がため息交じりに言った。
「ほんとだよ」
 良太もついつられて溜息をついた。

 


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