月鏡3

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「でも、来年の大和屋のイベント、去年ほど大掛かりじゃないから、まだよかったわ」
 直子は本当に佐々木のことを心配しているのだ。
「そうだね。でも、佐々木さんの仕事は、クリエイターだけにとどまらないから、大変だよね、茶の湯の方もだから」
 良太も半分気の毒に思いつつ口にした。
「うん、まあ、そっちは何とか、浩輔ちゃんもうちの先生の門下生になったし」
「え? 浩輔さんが?」
 西口浩輔は青山プロダクションとも取引のある代理店プラグインのデザイナーで、直子や佐々木とは、ジャストエージェンシーで一緒に仕事をしていた時期もあった。
 老舗呉服問屋大和屋のイベントとは、青山プロダクションを通じてプラグインと佐々木が制作に関わったプロジェクトで、今年の年頭も行われたものだ。
 来年の頭にも行われることになっているが、着物ショーと茶の湯がメインになっている。
 佐々木の母、淑子は茶道陽成院流師範で、佐々木も幼少から茶道を嗜んでいたため、大和屋の着物を着用して開催する茶の湯にも駆り出されるのだ。
「正直、今の佐々木ちゃんお茶とか頭にないからさ、それは間近になってからでいいんだけど、とにかく倒れないでほしいよ」
「佐々木さん、そんなひ弱なイメージはないけど、ムリは禁物だからな」
「そう」
 当の佐々木がやってきたのは、三時少し前あたりだった。
「お邪魔します。さっむかったぁ……」
 開口一番、佐々木は言った。
「いらっしゃい、どうぞ、中の方へ」
 良太は佐々木を大テーブルのソファへと促した。
「あ、これ、代わり映えせえへんけど」
 佐々木は一番町のオフィス近くにある老舗和菓子屋のきんつばが入った袋を差し出した。
「いつもありがとうございます! ここのきんつば、ほんと美味しいですよね」
 良太が感激しているうちに、鈴木さんが熱いコーヒーとブラウニーを佐々木の前に置いた。
「藤堂さんが下さったブラウニーですわ。一緒にニューヨークにいらしたんですってね」
「ありがとうございます、向こうも寒かったで……」
「強行軍で大変でしたね」
 良太は笑った。
「ほんま、ニューヨークにいる気せえへんかったもん。どこ見たいうわけやない、空港からホテル行って、撮影して帰ってきただけやし」
「はあ、大丈夫ですか? 身体休めないと皺寄せが来ますよ?」
「いや、飛行機の中で爆睡したのに、夕べも早うに寝てしもたから、時差も何もないくらいや」
 佐々木は巻いていたマフラーを取ってから、コーヒーカップを手にした。
「にしても、今日、風強いですよね、俺、ビル風が吹きすさぶようになると、決まって風邪引くから、気を付けないと」
 良太がしみじみと言う。
「俺は案外丈夫な体質やから、滅多に風邪を引いたりせえへんけど、ビル風は得意やないわ」
 佐々木は小首を傾げて微笑んだ。
 そんな佐々木を見て、良太はちょっとドキ、とする。
 年上の男性とわかっているのに、ただ綺麗というだけでなく、佐々木には何か不思議な艶やかさというか、時折目が離せなくなるようなところがある。
 いやまあ、本人自覚してないからなんだろうけど、無駄に引き寄せられる輩がいてもおかしくない。
 輩だけじゃないな、水野さんなんかもかなり佐々木さんに興味深々って感じだったし。

 


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