以前、仕事で東洋商事に出向いた時に、佐々木や藤堂とともに良太も同行したのが、音楽を担当するミュージシャンで、人気バンドドラゴンテイルのボーカル、水野あきらは、知らない相手には不愛想と聞いていたが、佐々木には最初からフレンドリーな感じだった。
それに。
なんたって、男も女も関係なく、誰に対してもフレンドリーなんて毛ほどもないはずの工藤が、この佐々木に対しては最初から妙にあたりがソフトなのだ。
ま、佐々木さんだからな。
「で、ドラマの代役、決まったって?」
コーヒーカップを置いて佐々木がたずねた。
「ああ、ええ、揉めに揉めてたんですけど、結局大澤流が受けてくれて。あの人、スケジュール的に結構タイトなんですけど。そう、それが、アディノのCMが好きらしくて、佐々木さんが担当だって聞いて、だったらやるみたいな感じでしたよ」
「それは光栄やけど、まあ、決まったんならええんやない?」
「ええ、大澤さんはアスカさんと弁護士シリーズでこないだも共演してたので、やりやすいと思いますよ、気心知れてるし」
「ふーん、だったら、ええかな。一から作り直すいうことやったけど、実際その方が前のイメージ払しょくでける思うわ」
佐々木はそう言って、ブラウニーを頬張った。
「あれ、でも、この仕事って、青山プロ関係やないんちゃう? なんで良太ちゃんが係りみたくなってんの?」
今思い当たったようで、佐々木が疑問を呈した。
「それが、アスカさんロケで代わりに、俺がドラマの撮り直しとかの会議に出席させられて、そん時、代役の候補を三名に絞って、そのうちの一人が大澤さんだったんだけど、プロデューサーが事務所に打診したら、初めはクスリで捕まった水波の代役なんかお断り、みたくけんもほろろだったんです」
「まあ、せやろな、普通の反応は」
「プロデューサー頭抱えちゃって、勝手に工藤のとこのプロデューサーってだけで、俺まで引っ張り込まれちゃったんですよ」
「なるほど、良太ちゃんいよいよ、プロデューサー単独デビューやん」
「もう、茶化さないでくださいよ、ただでさえ、うちの会社の仕事で手一杯なのに。まあそれがですね、先日、『からくれないに』ってその弁護士シリーズクランクアップしたんで打ち上げやった時に、大澤さんが、社長が断ったけど、自分としてはやってもいいかもとか言ったんで、CMが佐々木さん、って話したら、じゃ、やるって」
佐々木はハハハと笑った。
「さすが良太ちゃん、また株があがったやんか」
「あがらなくていいんですけどね、そんな株。まあプロデューサーは喜んでましたけど」
それからCMの打ち合わせの場所と日程を確認すると、佐々木はふう、と大きく息を吐いた。
「佐々木さん、やっぱお疲れみたいだし、今日はもう上がった方がいいんじゃないですか?」
「人を年寄り扱いせんといてぇな。ここでちょっと休ませてもろたし、もうバリバリやれるて」
「佐々木さん………」
良太はちょっと眉を顰めて佐々木を見た。
「ああ、でも、俺、ここのタイヤ、リピーターやから、この仕事、まあやりがいはあるねん」
「あ、そうですか? 俺も同じくです。やっぱ車はタイヤですよね」
佐々木の言葉に、良太は大きく頷いた。
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