月鏡25

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「ああ、髭? 何や、今度のクライアントがきっちりしたとこやからて。あいつ、フリーのプログラマーやねん、一応」
 鈴木さんも帰っていたので、自由にどこでもどうぞと良太が言うと、加藤は早速探知機で隅から調べ始めた。
「一応って何ですか」
「まあ、その手の業界では名の知れたハッカーやったけど、今は所謂ホワイトハッカーってやつで、そっちの需要のが大きいらしいで。サイバー攻撃とか最近頻発しよるし」
「はあ、何か、カッコいいっすね」
 良太は羨望の眼差しで加藤を見た。
「元ヤンやけど、信用置けるやつや。真面目やし」
 なるほどそれで腕っぷしが強いというより喧嘩慣れしているわけだ、と良太は納得した。「こないだのお友達、皆、そっち系?」
「せや、みんな。辻は高校ん時の同級生やけど、向こうで暴やんやって、大学でこっちきて、横浜で加藤らの仲間に逢うたらしい」 
 良太が聞くと、千雪は加藤の前でもお構いなしに説明した。
「高校卒業した頃、加藤らも暴ヤン卒業して、みんな仕事についたけど、たまに集まるんやて」
「はあ、俺、川崎なんですけど、あのあたりにも結構いたな。ってかそういうの卒業するもん?」
「ええ年してやってられへんてのが、あいつらの鉄則らしいで。あ、ほんで加藤がそのヘッドやったて」
「えっ? そう、なんですか。あ、コーヒーでも入れます?」
 良太は意外な話にまた地道に検査をしている加藤を振り返る。
「終わってからの方がええんちゃう?」
 良太は壁の時計を見て、そろそろ七時近くになっているのに気づいた。
「あ、じゃあ、何か出前取りましょか? 好きなもの言ってくだされば、加藤さんも千雪さんも」
 すると、今まで黙っていた加藤が、ボソリと、「鮨」と言った。
「あ、わかりました。千雪さんもお鮨でいいですか?」
「そらもう、俺までお相伴に預かって有難い」
 良太は早速寿司屋に電話をした。
「はい、青山プロダクションです。えっとはい、五人前お願いします」
「工藤さん、帰ってきはるん?」
 良太が電話を切ると千雪が聞いてきた。
「帰ってこなかったら、食べちゃえばいいんです」
「けど、五人前やと多いンちゃう?」
 千雪が素朴な疑問を投げかけた。
「あれ、背後霊は?」
「ああ、背後霊は今頃解剖の真っ最中やないか?」
 背後霊で会話が成り立つというのも千雪の面白いところだ。
「じゃあ、まあ、加藤さん、二人前くらい入りそうでしょ」
 加藤はバイク、千雪は車で来たという。
「じゃあ、ノンアルですね。俺、買い出し行ってきていいっすか?」
「いや、良太は監督しとかな。俺、行ってくるわ」
 千雪はそう言うと軽いフットワークでオフィスを出て行った。
 加藤はオフィス内を念入りに調べていたが、やがて良太のデスクにあったメモに何か書いて良太に見せた。
『一つあり。デスクの裏』
 加藤が示したのは工藤のデスクで、良太の後ろに位置している。
『誰でも手に入るタイプ。プロが仕掛けたものではないと思う。そこのデスクまでくらいまで拾える』
 やっぱりあったんだ。
 だったら、魔女オバサンの手先か。
 少なくとも波多野さんなら、そんな誰でも使えるものなんか使うはずないし。
 一体いつ仕掛けたんだろう。

 


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