何かの時にはまた、お願いしてみよう。
良太は頭の中にメモる。
「あと一応、警備員室とかもお願いしますけど、とりあえず腹ごしらえしてください」
「そういえば腹が減ったな」
加藤が顔を上げた。
いつの間にか八時を過ぎていた。
オフィスに戻ると、千雪が手持無沙汰でテレビをつけながら待っていた。
「キッチンからグラスとか借りてきたで」
「ありがとうございます。すみません、遅くなって。どうぞ召し上がってください」
工藤も電話で呼ぶとすぐに降りてきた。
「お先、いただいてます」
工藤の顔を見ると千雪が言った。
「お前は何をしてるんだ?」
ソファに座りしな、工藤はからかい半分尋ねた。
「俺は、ほら、オフィスのお留守番?」
大テーブルに置いた大きな鮨の器から遠慮なく鮨を取って食べながら、千雪は悪びれもせずに答えた。
珍しく工藤もちゃんと箸をつけている。
「まあ、工藤さんも、どうぞ一杯」
千雪はノンアルビールの缶を傾けて工藤のグラスに注ぐ。
「お前、相当ヒマらしいな」
「暇も作らんと、やって行かれへんし」
工藤は鼻で笑う。
「それで、盗聴器は他にあったのか?」
工藤は加藤に向かって尋ねた。
「いいえ、今のところオフィスに仕掛けられていたヤツ一つだけです。あとは、車のGPSとか、ネットや携帯関連調べれば」
「そうか、よろしく頼む」
「はい、わかりました」
気のせいか、加藤は工藤にそう言われて嬉しそうに見える。
良太は、何だかなと思う。
波多野がネットに流れた動画で工藤にオーラを感じるものがいるかのような言い方をしていたが、千雪がさっき言ったように、加藤は工藤のことを尊敬の眼差しで見ているのかもしれない。
ふーーん。
まあ、どのみち俺もその一人なんだけどさ。
「見つかったのは一般に売ってるヤツで、数メートルくらい音を拾えるくらいで。ノイズも多いし」
加藤は簡単に説明をした。
「今回仕掛けたやつらは、まあそんなところだろう」
工藤はまた祖母の顔を頭に思い描いて忌々し気に言った。
「俺のことや家族のことは興信所かなんかに調べさせたんだと思いますけど」
良太もまた魔女オバサンの鷲鼻を思い出して眉を顰めた。
「千雪さんに聞いてあらかじめ調べてみたんですけど、ホテルのその階の部屋を取ったのは、夜になってからなので、良太さんの車をつけてきた可能性が近いかと思います」
その件も加藤が端的に説明した。
どうやってホテルの部屋のことを加藤が調べたのかは聞かないが、良太は他に盗聴器や盗撮カメラなんかがなければいいのだと一人頷いた。
「でももっと高性能な機材じゃないと引っかからないものもあるかもしれない」
加藤が言った。
「いや、そんな高性能なモンを取り付けられるような連中じゃないだろう。できる限りでいい」
加藤の懸念を工藤は問題にもしなかったが、工藤としては波多野に話したようにドイツに行っているうち良太を一人にすることの方が心配だった。
よもやまた良太をどうこうとかしないだろうと思いたいが。
またぞろイライラと怒りが頭をもたげてくる。
「工藤さん、なんぞ心配事でも?」
千雪が工藤の表情を読んですかさず聞いてきた。
「いや……明後日から俺はドイツだ。映画の撮影もまた京都で始まるし、良太が同行するんだが……」
え、何でそんなこと千雪さんに話すんだよっ!
良太は内心工藤を訝しむ。
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