「そや、辻とかも秋に京都一度帰るとか言うてたし、どうにも進まん原稿、地元やったらなんぞインスピレーション降りてくるかもな。加藤はどや? たまには京都旅行とかもええで?」
「ちょっと千雪さん!」
明らかに工藤が仕向けたのだが、千雪がそれに乗っかって、「休みなら取れる」と加藤もにこりともせずに乗せられた。
千雪がラインで他のメンツにも声をかけたところ、数名が京都旅行に行くぞ、と声をあげたらしかった。
「一応、背後霊にも……と、行くらしいで?」
背後霊が行かないはずはないと良太は思う。
「何だ、背後霊ってのは?」
ノンアルビールを飲んでいた工藤が真顔で千雪に聞いた。
「千雪さんに憑りついてる背後霊ですよ」
良太が代わってそう言うと、「は、そりゃ行くだろうさ」と工藤が苦笑した。
総勢六名が京都旅行に名乗りを上げた。
おそらく冤罪事件の時、多摩の山小屋に集まった、屈強なやつらに違いない。
「そうか、じゃあ、良太、せっかくだから一週間くらいホテルでも取ってやれ」
工藤はノンアルで酔っ払ったかのように機嫌よさげに命じた。
「はあ?」
「奮発してやれ、な、良太」
良太にニヤっと笑いながら工藤は立ち上がり、「じゃ、あとは頼む。俺は上にいる」と言ってオフィスを出て行く。
ドアを開ける前に工藤は振り返ると、「ああ、無茶はするなよ」と千雪らに念を押した。
「シルビも喜ぶで、鞍馬のお山のお散歩やなんて」
すっかりもう京都旅行に千雪は心が飛んでいるらしい。
「はあ、でも千雪さん、地元でしょ?」
「鞍馬の方はそう足伸ばしたこともないからな。ホテル、奮発してくれるんやろ?」
「まあ、ええ、温泉とか? もありますし」
「あ、ええな、温泉!」
「千雪さん、大浴場苦手じゃなかった?」
「大浴場は苦手やけど、内風呂やったら最高やん」
「はあ。露天風呂付お宿、手配します」
良太としては複雑な思いだった。
何も起こらないだろうとは思うのだが、波多野も手を回すと言っていたし、だが魔女オバサンに良太が部屋に連れ込まれることまでは予測がつかなかったのだ。
しかし、そんなボディガード付きで京都まで行くとか、ありかよ? 俺が。
「けど、千雪さん、大学は? 皆さん仕事は? 大丈夫なんですか?」
「ああ、平気平気。京都温泉旅行のためなら、親戚の叔父叔母の一人や二人殺したかて……」
「千雪さん、また物騒なことを平気で口にするし!」
「俺は全然大丈夫っす」
加藤の返事も微妙に喜んでいるようなニュアンスだ。
「わかりました。じゃあ早速……って、いつからいつまでです?」
「それは良太の都合に任せるわ」
それでいいのかと首を傾げる良太だが、「じゃあ、火曜日から何泊?」と念のために聞いた。
「良太の戻ってくるのは?」
千雪が切り返す。
「俺は月曜ですけど……」
「じゃ、一緒に帰るんがええやろ?」
「わかりました、ツイン三部屋でいいっすか?」
「ええよ」
良太は露天風呂付温泉ホテルのツインを三部屋、予約した。
結構な額になるが、工藤が奮発しろと言った手前、格安はパスって、間近ではあったが、グレードの高い部屋は何とか予約できた。
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