月鏡42

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「そんなことしませんよ。どうせ、虎の威を借るとか言いたいんでしょ」
 良太は京助を斜に見た。
「言わねェさ。お前トラにも食って掛かるからな」
 京助の科白に檜山はくすくす笑う。
「良太、キレると怖いもんな」
「こんな弱っちいのつかまえて怖いとかないっしょ」
 檜山に抗議して良太は眉を寄せる。
「でも一応、俺も皆さんと同じ体育会系っすから。腕っぷしは強くないけど」
 良太はとりあえずそれだけは宣言してみた。
「へえ、良太、何やってたんだ?」
 ニヤニヤと笑う山倉から声がかかる。
「野球、ですけど。ガキん時から。これでも沢村を三振に取ったこともあるんで」
 一応、自慢にもならないことを付け加えてみる。
「へえ、沢村と試合したことあるんか?」
 辻が突っ込みを入れる。
「大学の時、までですけど。六大学リーグで」
 沢村の名前を出したところで、まだあいつの問題、全然進捗なしみたいだな、と良太はそのライバルを思いやった。
「おお? 大学どこだったんだ? 俺もR大だった」
 加藤が六大学の一つを上げた。
「え、いや、その、万年最下位、でしたけど」
 尻すぼみにボソボソ口にした良太に、「うっそ、良太ってT大出? 見えない!」と白石が大仰に喚く。
「はあ、野球しかやってなかったんで………」
 すると檜山が、「良太、野球やるためにT大行ったんだって。それってすごくない?」と加勢する。
「まあ、人には色々目的もあるわな」
 思い切り上から目線で京助が言った。
「じゃあ、高校、野球で有名なとこだったんだ?」
「いや、川崎第一って、野球でも鳴かず飛ばずの高校で、一応、県大会までは行ったんですけどね」
 加藤に聞かれて良太は答えた。
「お、ひょっとして神奈川県民だった? 俺、横須賀」
「え、同県人?」
 すると山倉が「俺ら昔、湘南鉄拳隊ってブイブイ言わせてたんだぞ、みんな同県人だ。淳史は横浜、啓は湘南」と、嬉々として言った。
「同県人ですね。……湘南鉄拳隊……っすか?」
 ここでまたベタなとか言ってしまいそうになるところを、良太は寸でのところで抑えた。
「お前、今、ベタな名前、とか思うたやろ?」
 辻がすかさず言った。
「ま、さか、滅相もない!」
「ほんと、ベタなネーミング!」
 良太が抑えたことを檜山が笑いながら言うので、良太は焦った。
「まあ………ベタなことやるのが、高校生どもってことさ」
 白石がフンと鼻で笑った。
「そういや、千雪はどうした?」
 思い出したように加藤が京助に尋ねた。
「ああ、あいつは温泉恐怖症」
「温泉恐怖症?!」
 白石と山倉がハモる。
「何それ?」
 ああ、と良太は思い出した。
 二月に軽井沢で京助の主導でスキー合宿をやった際、千雪の同級生の一人三田村が自慢げにそのことを話していた。
「ガキん頃、修学旅行先の風呂で、クラスメイトに襲われて逆にタコ殴りにしたって話」
 辻が淡々と説明した。
「何だよ、それ、イジメじゃん」
 山倉がビシッときつく言い放つ。
「いや、わからないでも……まあ、からかいがエスカレートしたってくらいじゃね? ちょっとあいつ綺麗過ぎるからな」
 加藤は子供の心理を考えて口にした。
「お前も加担したのか? 誠」
 白石が眉を顰めて聞いた。
「いや、俺、クラス違ごたし。それに中学頃から群れるの好きやなかったからな。俺で断罪すんなや」
 辻はまた淡々と返す。


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